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発掘!文春アーカイブス

2018/01/14

source : 文藝春秋 1955年6月号

genre : ビジネス, 企業, 商品, 音楽, テクノロジー

前代未聞の洗濯講習会

 昭和28年の夏、最初の噴流式洗濯機が出来、いよいよ売出したが、手始めに、テストケースとして、大阪で信用の置ける小売商を選定して、

「君、押売は絶対にいかんぞ。1台持って行って『実は今度こういう新型が出来ました。1週間お貸ししますから、奥さん、兎に角使って見て下さい』と言って、使用法をすっかり教えて置いて来なさい。無理に押付けてはいけない」と十分旨を含めた。

 大体に於(おい)て男性は洗濯なぞに関心はない。女房がゴシゴシ洗って呉れてるから、それでよいものと思っている。多くの販売店の主人もその例外ではない。しかしこれからは全く新しい噴流式を大いに売って貰わねばならない。そこで販売店の店主に集まって貰って洗濯の講習会を開いた。そもそも洗濯には、揉み洗い、たたき洗い、さらし洗いといろいろあって、従来の攪拌式は揉み洗いで今度の噴流式はさらし洗いに相当するというところから始まって、石鹸の化学作用や、布地の種類による様々の洗い方まで理解して貰った。実際そこまで知らないと、何しろ奥さん方相手の商売だから、向うは10年20年と年期を入れたヴェテランばかり、突込まれてヘドモドするようでは話にならないのである。

 現在の日本は物凄いカメラブームである。何万円という立派なものをブラ下げて歩いている人が多い。休日の行楽地などへ行って見ると大変なものだ。全国平均していまカメラは4世帯に1台の割合で行きわたっていると言われているが、洗濯機の方は東京で漸く25世帯に1台程度のものである。旧態依然たるタライの前に奥さんをしゃがみ込ませて置いて、主人公は高価なカメラを肩にブラブラしているというのではよき亭主たる第一条件は失格ではないか。

三洋電機が売り出した、国内初の噴流式洗濯機SW-53 ©文藝春秋

 もっとも、大体に於て、年寄のいる家庭にはなかなか入りにくい。そんな贅沢なものを買っては外聞が悪いというのと、自分たちの若い時には洗濯で苦労してそれが当り前だったのに、近頃の若い嫁は楽をすることばかり考えていてけしからんというのと、この二つの考えが一緒になって阻止するのである。だから細君が欲しがり、亭主が承知しても、老人がウンと言わないために買うことが出来ない場合が多い。

 農村の場合でも同じで、東京近県の町や村では相当に使用されているが、東北でも東京から離れた所程、右の二つの考えが強くて、なかなか入りこめない。電力会社とタイアップしたりして努力しているが、気長にやるほかはないであろう。兎に角、冷蔵庫と間違えたり、中が空っぽでどうして洗えるのだなどと言い出す人が都会にもまだまだいるのだから、一概に田舎の人ばかりを責めるわけにも行かないのである。