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人気作家が「創作のひみつ」を初公開! 桜庭一樹×辻村深月

「アイデアは携帯にメモしてはダメ」「ラストはほとんど決めてない」

作品のテーマはどのように決めるのか?
ラストは決めておくのか、編集者はどう関わるのか?
意外にも初対談という2人が明かす、創作の裏側。

◆◆◆

――お2人は対談されるのははじめてだそうですね。

桜庭 はい。文学賞のパーティなどでお会いすることはあったんですよ。

辻村 でも真面目に小説や創作の話をしたことはなかったんですよね。今日は楽しみです。

――最初に、なぜ小説家という職業を選ばれたのか、それぞれ教えてください。

桜庭 私は本を読むのがすごく好きで、子どもの頃から将来は本に関わる仕事をしたいと思っていて。小学5、6年生のある時、友達が小説を書き始めたので、自分でも書いてもいいんだと気づき、だんだん書くほうの仕事をやりたいと思うようになりました。

辻村 私は小学生の頃、小説だけでなく映画も漫画も、フィクション全般が好きでした。その中でなぜ小説を選んだのかを考えると、たぶん、何も要らなかったからですね。特別な道具は要らないし、絵心も要らないし(笑)。書き始めたらすごく楽しくて、中学生くらいから友達に読んでもらうようになり、「続きが読みたい」と言われたことからプロになりたいと思い始めました。

桜庭 私も友達に読ませて、頼まれてもいないのに連載を書いたりしていました。

「人が死ぬ話を読む時、私、すごく楽しい」と気づいた

――お2人とも、小説のジャンルは意識していましたか。

桜庭 私も辻村さんと同じで漫画もアニメも映画も好きで、小説もいろんなジャンルに興味があって、ミステリもSFもファンタジーもライトノベルも純文学も、外国の本も好きでした。なのでこのジャンルを書きたいというより、このテーマを伝えるにはこのジャンル、と考えます。辻村さんの作品も、ファンタジーや学園ものなど、毎回違いますよね。

辻村 私も同じで、ジャンルに構わず、図書館の本を闇雲に読んでいたんです。でもある時「なんか人が死ぬ話を読む時、私、すごく楽しい」となって(笑)。それで自分はミステリが好きだと気づきました。小学6年生の時に綾辻行人さんの『十角館の殺人』を読み、小説でしかできない表現があることを知って。今、私はミステリに分類されない小説でも自分はミステリの手法を使って書いていると思っているのですが、それは、綾辻さんの本との出会いがあったから。実は「辻村深月」の「辻」の字は綾辻さんから一文字いただいています。

桜庭 私もミステリではないものを書く時でも、ラストでカタルシスを得てもらうために、ミステリで学んだ手法を使うところがありますね。

桜庭 一樹さん

辻村 桜庭さんの作品はいつも、読者に届けたいことをミステリの真相のような形で明確に提示してくれているので、すごく信頼感、安心感があります。

桜庭 ラストを決めて、そこに向かって書いているからかもしれない。

辻村 私はラストをほとんど決めずに書いているんですよ。

桜庭 え、そうなんですか!

辻村 下手をすると伝えたいテーマも決まっていないことがあって。とにかく何もない地面を掘り進めるような感じなんです。連載中、今回は掘っても何も出てこないかも、と思う時もありますが、不思議と何か出てくる。

携帯のメモ機能でアイデアを活字にしてはダメな理由

桜庭 私も事前に決めすぎないようにはしています。決めておくことと、決めずに自由度を置いておくものの兼ね合いが大事。人物表も手書きで名前と「こんなタイプ」ということをメモしておくくらいです。でも構成は図形で作りますね。AさんとBさんという2人の話が別々に交互に進み、だんだん近づいて最後に2人が出会って「Y」の形になる、とか。それをもっと複雑にした、あみだくじのような図形を考えます。

辻村 じゃあ『赤朽葉家の伝説』なんかは葉脈のような図だったんですか。

桜庭 あれはわりと大雑把です。編集者に、「雑誌の年末号に来年のわが社の隠し玉を紹介したいから、次作のあらすじを決めてほしい」と言われ、咄嗟に「じゃあ鳥取の旧家を舞台にした女3代の歴史と、空飛ぶ男の秘密」と言ったんです。あの時「空飛ぶ男」と言わなかったら、また違う話になっていたかも(笑)。

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

桜庭 一樹(著)

東京創元社
2010年9月18日 発売

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辻村 あの小説は2章までの疾走感がすごいですが、最後の3章でミステリになった時、1章と2章の存在感がより際立つ。あの構成にはしびれました。私もプロットはあまり作らないんですよ。いつも書き終わってからExcelで人物の行動を時系列で書いて、帳尻を合わせます。事前にきっちりメモしておくと、そこで安心しちゃうというか。多分メモ以上の表現が出ないと思うんですよね。

桜庭 分かります。私、手書きでゆるくメモするとイメージが固定されずセーフなんですよ。携帯のメモ機能とかで活字にしちゃうと、それ以上広がらなくなる。