その翌日、途轍もない轟音が唸り狂う中、私は寝袋で恐怖に身をすくめていた。天気予報は信じられないほど完璧に、これ以上ないというぐらい美しいかたちで、外れていた。

 風が吹きはじめたのは未明だった。例によって、無風状態のなか、まずは嵐の到来を予告するかのようなぶーんという一陣の微風がテントを揺らした。そして、ぶーんはぶん、ぶーん、となり、ぶーん、ぶぶぶーんに変わり、それからはぶおー、どごごごっ、ぐわー、と破壊的な音になるまでさほどの時間はかからなかった。やがて先日、氷床に到着してから最強だったブリザードを上回る、とんでもない強風が狂ったように吹き荒れた。

ふたたび、猛り狂う風に怯える夜。

 昨日、安全地帯に入ったとひと安心したのは甘かった。殺人的なブリザードが吹き荒れて氷河の麓まで叩きつけられないかぎり大丈夫だ、と12時間ほど前は余裕をかましていたのに、冗談抜きで氷河の底まで吹き飛ばされかねない風が吹きはじめたのだ。夕方になると風はさらに猛り狂い、暴虐的なものになった。時々テントの床下に風が入りこみ、ふわっと浮かび、私をゾッとさせた。テントが吹き飛ばされる恐怖から、私は張り綱を確かめようと外に出たが、出た瞬間に弾き飛ばされそうになった。烈風が肺の中に入り込み、まともに呼吸することさえできない。立っているのがやっとで、到底作業できる状態ではなく、よたよたと支点が無事なことだけ確認して這うようにテントに戻った。

 こんな風がつづいては生きた心地がしない。私はたまらず山崎さんに電話した。一体、昨日の天気予報は何だったんですかと、関係のない山崎さんに文句を言いたい気分だった。

「こっちはすごい風です」と言うと、山崎さんも「シオラパルクもすごい風だよ」という。

「予報は昨日と変わってませんか?」

「風は明日の朝まで吹いて、それからは夕方まで落ちつくみたい。夜にまたすごい風が吹くようだけど、日中の天気は良いみたいだよ」

 それを聞いて少し落ち着いた。とにかく今日1日この馬鹿みたいな風を耐え凌げば、氷河を下りられる。氷河を下りさえすれば、あとはテントが飛ばされようが、食料が無くなろうが村までは生還できる。夜の闇が訪れると風の音はさらに爆発的にうなり、恐怖がいっそう増した。