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東北に本当の優しさを教えてくれた男――追悼・星野仙一

文春野球コラム クライマックスシリーズ2017

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星野さんが聴いていた「勝手にドラフト会議」

 直接お会いする事は一度もなかったが、2016年の秋に芸人達が東北に集まって自分の贔屓チームのドラフトを実際に行うという「勝手にドラフト会議」というイベントをラジオで生放送したのだが、このラジオを本物のドラフトの作戦会議のために球団事務所に来られていた星野さんが偶然聴いていたらしく、僕が明治大学の柳裕也投手を指名した瞬間に、

「誰や! 今、柳を獲ったやつは!」

 と叫んだのだと、すぐに本番中にも関わらず舞台上に背広を着た方が現れ、僕の足元で「副会長が聴いている事をふまえてよろしくお願いします!」とだけ残し去っていった。。

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 いや、なんか恐いやないかぁ!

 ラジオ消してくれよっ!!

 その後、二位で獲った笠原祥太郎投手も本番のドラフトでは中日ドラゴンズへ。
僕が決めるドラフトの選手を星野さんが聴いてくれていたという、間接的ではあるが、僕にとっての星野さんとの唯一の思い出であります。

星野さんを見ると恐かった母親を思い出す

 30年くらい前、小学校の修学旅行で友達とプロレスごっこしていて僕が頭から血を流し救急車で運ばれた事があった。幸運にも頭を数針縫うだけで助かったのだが、家に帰ると、その友達がお母さんと謝罪に来た。するとうちの母親は「修学旅行楽しまれへんかったんちゃうか? ゴメンな。ゴメンな」と友人に謝り、「お前はただケガしただけやないか! この子が悪いならお前も同じだけ悪い。謝れ!」と僕をむちゃくちゃ怒った。

 かと思えば姉が男の子とケンカして、男の子が泣きながら母親とウチの家に乗り込んで来た時なんかは、「君は情けないのぉ! 男やったら勝たんかい! よし、もっかいケンカしてみぃ!」と言っていた。

 そう、とにかくウチのオカンは恐かった。怒るとむちゃくちゃ恐かった。なんでこんなに恐いんやろ思てた。

 昭和22年1月22日生まれ、干支は猪、みずがめ座。中学くらいの時に星野監督と同じ日に生まれた事を知り、妙に納得した事を思い出した。その頃からだろうか、勝手に星野さんを通してオカンを思い浮かべるようになっていたように思う。子供の頃、めちゃくちゃ怒られたけど、頑張った時は褒めてくれたオカン。実はそんなオカンも昔から星野さんの大ファンだった。今シーズン一度ぐらいオカンと楽天戦観に行ってみようかなぁ。

 星野仙一様

 東北に来てくださり本当にありがとうございました。心よりご冥福をお祈りいたします。

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