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「治療中、仕事があってよかった」——柴門ふみ、乳がんを語る #1

柴門ふみさんインタビュー#1

2018/01/23

「がんの疑い」と最初に言われた時の衝撃が、いいクッションに

──それから毎年検査を受けて、3年後に「がん」が見つかったんですね。

 毎年検診に行っても何も出ないので「私は強運だから大丈夫」と高を括っていました。がんが見つかった年も「面倒だけど、行くか」という気持ちで検診に行ったら「去年は映っていなかった何かが映っている」と再検査になり、すごく嫌な予感がしたんです。「こういう時は悪いものの可能性が高い」と言われ、結果が出るまでの2週間は精神的にジェットコースターみたいな毎日でした。朝は気分良く目覚めるんですが、だんだん気持ちが落ち込んできて、夜は最悪に落ち込む。2週間がとても長く感じられました。

 

──がんと診断されて、どんなお気持ちでしたか。

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「私は強運だからがんにはならない」と何の根拠もなく思い込んでいたのでショックはありましたが、それよりも「やっぱりなあ」という気持ちが大きかったですね。「がんの疑い」と最初に言われた時の衝撃が、いいクッションになったみたいで、その時よりは冷静に受け止められたと思います。もちろん、不安はありましたけど、それでも検診でごく初期の腫瘍が見つかったことを考えたら、やはり強運なんでしょうね。

漫画の仕事をしている間は、恐怖や不安を忘れられる

──「不安」というのは、ご家族や仕事に対してでしょうか?

 いえいえ、まず自分です(笑)。死の恐怖、手術の不安、それから転移の不安です。あと、乳房を失う恐怖もありました。

 漫画家は空想の世界に入り込むのが仕事なので、イマジネーションが膨らんで……。でも逆に、作品を描いている間は妄想の世界に没頭できるので、恐怖や不安を忘れられるんですよね。仕事があってよかった、と思いました。

 

──告知から手術まで、不安な状態をどうやって乗り切られたんでしょうか。

 ちょうど雑誌の取材でオーストラリア旅行が入っていたんですよ。「西オーストラリアを旅する」という企画の楽しい取材旅行で(笑)。昼間歩き回るので、夜は疲れて熟睡。恐怖も忘れられて、いい気分転換になりました。

 あとは、考えても考えなくても状況は変わらないので、考えないようにしました。投げやりになるということではなく、悪い方向に妄想を広げないようにするということですね。