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松本清張、最後の担当者が明かす『砂の器』“誤記”の真相

「地図と鉄道と松本清張」トークセッション

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鉄道は100、地図では10。セレクト作品にこめた思い


赤塚 『清張鉄道』では、初乗りがあるかどうかで、ちょうど100作品を紹介しました。『清張地図帖』は、膨大な清張作品から10作品を特集として選んでいます。さぞ難しかったでしょうが、どんな基準で選ばれましたか。

北川 よく知られている作品、映画やドラマになっているものは外せません。ただし、作品の魅力を地図で表現できなければいけない。そのために、人物が移動している作品を選びました。あまりに有名なものばかりでも面白くないので、『火と汐』(67年11月)を入れました。これは地図にすると面白い作品なんですね。

大平原 わが社は、はっきり言うと教科書会社なんですね。そのため、企画には非常に時間をかけて、入念に計画を立てて書籍を作ります。この本のコンセプトは、「松本清張の世界を旅するノスタルジックな地図帖を作りたい」で、その観点から厳選しました。まだまだ地図にしてみたい作品もありますし、できれば『松本清張地図帖2』を出したいと思っています。

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羽田空港から相模湖までの最短ルートは?

大平原 最後に私からもうひとつ、『時間の習俗』(61年5月~62年11月)のトリックについて、赤塚さんのご意見をお聞かせください。

 相模湖で殺人事件が起こります。犯人は伊丹から飛行機を使って羽田空港へ戻り、相模湖まで往復しています。具体的にいうと、19時35分に羽田空港に着いて、川崎に向かい、21時5分に立川で中央線に乗って、21時48分に相模湖に着いて人を殺します。その後とんぼ返りで羽田に戻って、福岡に飛ぶわけです。

 犯人は羽田空港から川崎までタクシーに乗って、川崎から南武線で立川に行っていますが、わざわざ南武線に乗るでしょうか。蒲田から都心経由で、中央線で相模湖に行けばいいのになと思ったんですが。南武線を使うルートは現実的だと思われますか。

今では羽田からの交通はもっぱらモノレールだが ©杉山秀樹/文藝春秋

赤塚 その点は私も、いささか時間的に無理なんじゃないかと思います。羽田空港に着陸してから立川までの経路と、立川で乗る中央線の時刻が書かれているんですが、当時の時刻表を見ても、南武線の時刻がわからないんですよ。昭和36、37年に川崎から立川まで、チョコレート色の南武線でどのくらい時間がかかったか……。

 都心回りはどうかというと、当時はまだモノレールが開通していませんから、蒲田まで出て、京浜東北線で品川まで乗り、山手線の外回りで新宿に出るのですが、このルートで立川まで1時間少しで行くのは無理なんです。このあたり、先程の誤記の問題と少し似てはいるのですが、さすがに清張さんもオールマイティではないので、小説として楽しめればよいのではないでしょうか(笑)。

大平原 赤塚さんの本の中で詳しく述べられていますので、みなさんぜひ、読んでみていただければと思います。本日は、ありがとうございました。

2017年12月22日 神保町・書泉グランデにて

常磐線綾瀬駅近くの線路に立つ松本清張 ©藤森秀郎/文藝春秋

清張鉄道1万3500キロ

赤塚 隆二(著)

文藝春秋
2017年11月10日 発売

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松本清張地図帖

帝国書院編集部(著)

帝国書院
2010年5月21日 発売

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松本清張、最後の担当者が明かす『砂の器』“誤記”の真相

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