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ドラゴンズは大野奨太の獲得で本当に「正捕手は安泰」なのか

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

2018/01/16
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大野の中の“谷繁イズム”

 リード面についても少し不安に思っていることがある。それは、一昨年の広島との日本シリーズで、3試合連続でエルドレッドにホームランを打たれた場面だ。

 第1戦で大谷が打たれた1本目は外角のストレート。ほぼ要求通りで決して甘いコースではなかったが、リーチの長いエルドレッドには打ちごろのコースになってしまった。当然ビデオを見たりと情報は把握していただろうから「大野の想定以上にエルドレッドのリーチが長かった」「初戦なので仕方ない」とも言える。

 しかし2戦目も一発を打たれ、札幌に場所を移した第3戦も有原の得意なカットボールを外角に連投させた結果カウントを悪くし、一番甘く入ったカットボールをライトスタンドに運ばれてしまった場面は、大野に少し臨機応変さがなかったように思えた。

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 私がそう言えるのは、長年谷繁元信のリードを見てきたからだ。なんとなく「内角を強気に攻める」というイメージがあるが、谷繁はその日の打者や投手の状態を把握し、一番打ち取れる可能性が高い球を臨機応変に選択していたように思う。時にその投手の持ち球を意識させつつ、抑えられる可能性が高いと判断すれば、違う球種で勝負する事もよく見られた。ただ、そこに行き着くには当然投手のレベルも上げていかないと成立しないし、その日の状態も把握していなくてはならず、見えないところで私の想像を遥かに超える努力があったのだと思う。

谷繁の現役時代と同じ27番を背負う事になった大野 ©文藝春秋

 一方、この大野のリードを見てあるシーンが思い浮かんでいた。それは2004年ライオンズとの日本シリーズでカブレラと対峙した、山井大介と川上憲伸のピッチングだ。シリーズ絶好調だった両投手は、得意のスライダー・カットボールを決め球に、外の出し入れのみで怪人・カブレラをキリキリ舞いさせた。100%構えた所に投げられる器量が投手にあったからこそ成せるリードだったと思う。

 もしかしたら、地元・岐阜出身で、当時岐阜総合学園の高校球児であった大野は、この時の谷繁のリードがイメージにあり、有原のカットボールの状態がよかった為「100%コースへ投げきれる」という判断の下、外の出し入れのみで勝負したのかも知れない……。

 幼少時よりドラゴンズファンであった事を公言している大野は、恐らく「守り勝つ野球の要」谷繁元信のリードや立ち振る舞いを数多く見てきたはずだ。

 奇しくも谷繁の現役時代と同じ27番を背負う事になった大野は入団会見で「谷繁さんにはなれないけど、同じようにドラゴンズを愛し、チームのために頑張る」と抱負を語った。

 壁にぶちあたった時「谷繁さんだったらどう考えるのか」を突き詰める事が、大野の成功とドラゴンズ復活への近道になるのではないだろうか。

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