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コルトを引っさげ女渡世人が幕末を駆け抜ける

大矢博子が『コルトM1847羽衣』(月村了衛 著)を読む

2018/01/22
『コルトM1847羽衣』(月村了衛 著)

 止まらない止まらない。もう一気読みだ。

 幕末の日本を、6連発のコルトM1847を携えて若き女渡世人が駆ける。その設定だけでワクワクしてしまうではないか。

 月村了衛のコルトものと言えば、大藪春彦賞を受賞した『コルトM1851残月』がある(本作とつながりはない)。前作は商家の番頭がコルトを使い邪魔者を消していくというノワール小説だったのに対し、今回はなんと股旅ものだ。

 主人公は〈羽衣〉の二つ名を持つ渡世人のお炎(えん)。結婚を誓った恋人・信三郎が行方不明となり探していたところ、4年前に佐渡の金山へ送られた無宿人が信三郎だったのではという情報を聞く。そこでコルトM1847を引っさげて、佐渡へ渡ってきた次第。

 ところがそこで、お炎はなぜか命を狙われる。どうやら金山には「オドロ様」という奇妙な像を信仰する邪教が密かに広まっているらしいのだが、それと信三郎にどんな関係が? 金山の地下深く、闇の中でお炎のコルトが火を吹く――。

 まず、この羽衣お炎がべらぼうにかっこいい。緋牡丹博徒シリーズの藤純子もかくやという女渡世人にして、当時のコルトの中でも最も銃身が長く最も重いM1847の使い手だ。「この鉄砲はそんじょそこらの品じゃないんだ」とクールに一発。「天下無双、亜米利加国はコルト屋さんの新式さね」とこともなげに呟く。読んでるこっちが撃ち抜かれるってもんだ。

 6発撃った後の弾込めにかかるタイムロスがサスペンスを産むのは『残月』と同じだが、前作の主人公が一匹狼だったのに対し、本書最大の特徴は仲間の存在にある。お炎を姐御と慕う軽業師のおみん。お炎のため豪商が派遣してくれた裏稼業の玄人たち。そのチームプレイが弾込めのロスを助ける。それぞれがプロフェッショナルの技術と矜持を持って戦いに挑む姿には興奮の連続だ。

 怪しさ満点の敵、恐るべき陰謀の正体、銃と剣の手に汗握るアクション、中途に待ち受ける驚きの展開、大掛かりなクライマックスの仕掛け、哀切な恋の行き先、余韻の残るエンディングなど、隅から隅までエンターテインメントの王道。金山の労働環境に昨今のブラック企業問題が重なるという社会派な面まで備えている。この面白さは6連発どころじゃない。マシンガンだ。滾(たぎ)るぞ。震えるぞ。

 前作の残月が〈静〉なら羽衣は〈動〉だ。これぞ娯楽時代活劇。羽衣お炎一世一代の大勝負に、憂さを忘れて気分がアガること間違いなし。どちらさんも楽しんでおくんなせえ。

つきむらりょうえ/1963年生まれ。2012年『機龍警察 自爆条項』で日本SF大賞、13年『機龍警察 暗黒市場』で吉川英治文学新人賞、15年『コルトM1851残月』で大藪春彦賞、『土漠の花』で日本推理作家協会賞を受賞。近著に『機龍警察 狼眼殺手』など。

 

おおやひろこ/1964年生まれ。著書に『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』『女子ミステリー マストリード100』など。

コルトM1847羽衣

月村 了衛(著)

文藝春秋
2018年1月12日 発売

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