昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

菅野 朋子
2018/01/20

オリンピックに「大規模派遣団」を送る北朝鮮の意図とは

韓国には早速五輪参加と引き替えの“請求書”が届けられた

 韓国代表団を迎える口元にはうっすら笑みを浮かべているが、アイラインがくっきりと引かれた目はまるで相手を射貫くようだ。服装は清楚な藍色のスーツに、足下はハイヒール。持っていた深緑のカバンはエルメスの2500万ウォン(約250万円)とネットで騒がれたが、エルメスが自社製品ではないと否定する一幕も。

 1月15日の南北実務協議でひときわ目を引いたのが、北朝鮮代表団で紅一点の玄松月・牡丹峰(モランボン)楽団長兼労働党中央委員会候補委員だった。

1月15日の南北実務者協議(右から2人目の女性が玄楽団長)©Getty

もともとポチョンボ電子楽団のスター歌手だった

 9日に行われた南北実務会談にて、北朝鮮は平昌冬季オリンピック参加を正式に表明。400~500人という大規模の派遣団も送ると大言し、とりわけ関心を引いたのは、高位幹部を含むとされた派遣団のメンバーだった。

 北朝鮮の「ナンバー2」といわれる崔竜海・党組織指導部部長などの名前が挙がる中でにわかに浮上したのは、金正恩・朝鮮労働党委員長の妹の金与正・朝鮮労働党宣伝煽動部副部長と冒頭の玄楽団長だった。

 玄楽団長は、もともと金正恩党委員長の李雪主夫人が所属していたポチョンボ電子楽団のスター歌手で、金正恩党委員長とは親密な関係にあったと噂された。昨年10月には、歌手出身者としては初めて朝鮮労働党の中央委員会入りし、出世の背景などとともにさらに注目が集まっていた。

「親密な関係にあったのは実は金正恩党委員長ではなく、故・金正日総書記といわれています」と語るのは、韓国の北朝鮮専門家だ。

「芸術家が党中央委員会入りするのは異例で、背後に相当な後押しがある。いずれにしても、金正恩委員長にとってはスキャンダルに再び火がつくことが予想されることから、玄楽団長を平昌冬季オリンピックに派遣させる可能性は低いと考えられていました。それが、実務協議で国際舞台にデビューさせた。オリンピックに派遣される可能性は極めて高くなった」

金正恩党委員長を礼賛するための楽団

 玄楽団長率いるモランボン楽団といえば、2012年7月に金正恩党委員長肝いりで作られた北朝鮮の“ガールズグループ”。歌で北朝鮮体制や金正恩党委員長を讃える役割を担う。2015年12月に訪中した際には、公演直前に撤収し、バスに乗り込む姿などがとらえられたが、ドタキャンの背景とともにメンバーの美貌がクローズアップされた。

北京訪問時のモランボン楽団 ©Getty

 しかし、15日の実務協議では「三池淵管弦楽団」をはじめとする140人の芸術団が派遣されると発表された。

「三池淵管弦楽団については詳細がわかっていません。15日の実務協議前に韓国側に提出された名簿には、玄楽団長の肩書きは『管弦楽団団長』となっていました。この肩書きが謎でしたが、三池淵管弦楽団に参加させる伏線だったのか……。

 モランボン楽団は、金正恩党委員長を礼賛するための楽団ですから、もし韓国に派遣されることになった場合、当局が演奏曲に神経をとがらせていました。三池淵管弦楽団では民謡などを演奏するとしていますが、まだ油断はできません」(同前)