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スカートをはいて出社し、解雇されるまでの内なる戦い──「作家と90分」藤野千夜(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2018/01/27

genre : エンタメ, 読書

前篇より続く)

古本屋が多い町は人形町!?

――『編集ども集まれ!』を拝読して、それにしても細かなことを憶えてらっしゃるな、と。日記をつけたりしていたのですか。

編集ども集まれ!

藤野 千夜(著)

双葉社
2017年9月20日 発売

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藤野 日記というか、メモ的なものはあったんです。18歳くらいから、陸奥A子さんの『りぼん』の付録のノートに書いていました。でも少ないと1年に1ページくらいしか書かないので、日記とはいえないものですが、その時代のことも何ページか分はありましたね。

――面白いエピソードや会話がたくさん出てきます。社屋の移転の話が出た時に、「小学館とか集英社とか大手に持ち込んでボツになった人がうちの社に来るから、会社は神保町にあったほうがいい」と言ったとか。

藤野 それは編集長が真顔で言ったんですよ。「いやー、神保町にないと、うちみたいなところには誰も来ない」って。その通りだなとは思いました。

――まだ就職する前、古本屋が多い町は神保町だと人が話しているのを、人形町と聞き間違えて、人形町に出かけて行った、というのは本当ですか?

藤野 本当です。それは自分の性格をよく表しているなと思って。中学時代ですが、クラスメイトの会話を一人でずっと聞いていて、「人形町だな」と思って。どうして声をかけて確認できないのかなっていう。

――就職してからは、会社に行って給湯室の奥のトイレを開けたら鳩がいて、それを見て見ないふりした話とか。

藤野 本当にいたんです。いた上に、知らないふりをしました(笑)。

藤野千夜さん ©榎本麻美/文藝春秋

「普通の会社になっちゃったな」

――そしてとにかく、会社の人たちが個性的! 社内の編集者たち一人一人の個性やエピソードも描きこまれて、それも本当によく憶えてらっしゃるな、と。

藤野 でも私が入った頃の上の人によると、「普通の会社になっちゃったな」っていう時代だったそうですよ。前はもっと、それこそ社内でチンチロリンをやっていた人もいたらしいですし(笑)。

 昔の同僚の、ここにも出てくるエッちゃんが、これを読みながら「忘れていることがいっぱい出てくるからすごく面白い」と言ってくれて。広告宣伝部の人が部屋を出ていく時に後ろ向きのまま手を上げて出ていく、といったことを「忘れてたよ」って。

 普段からそんなことばっかり見てる人間だったんだと思うんです。小ネタが好きなので。みんな忘れていそうなことをチョロッと憶えていて言ったりするのが好きな性格なんじゃないかなと思います。

 ただ、誰かとどこかに行った時に、そういう細部を利用して小説を作ると、「そのまんまだ」ってすごく言われるんですよね。雀荘の様子をそのまま書いて、買いだしに行ったコンビニで何を買ったかまでそのまま書いたりすると、話までそのまんまみたいに言われちゃうので。

――ああ、『おしゃべり怪談』で、雀荘に行ったOLたち4人が男に包丁を突きつけられながら延々と麻雀をする話を書いてらっしゃいましたよね。包丁を持った男というのは……。

藤野 いなかったんですけれどね。だから話の根本が違うのに、と思うんですけれど(笑)。