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スカートをはいて出社し、解雇されるまでの内なる戦い──「作家と90分」藤野千夜(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2018/01/27

genre : エンタメ, 読書

note

■読者からの質問

◆アイデアをうまく出すコツや習慣を教えてください。(30代男性)

藤野 教えてほしいです(笑)。思いついたらわりとメモはしていますね。使える使えないにかかわらず。メモしないと忘れちゃうようなものは必要ないとおっしゃる方の話を聞くと、そうだろうなとは思うんですけれど、本当に忘れちゃって何も残らないので。自分の場合は、なんでも思いついたらメモしておくと、案外後で拾えたりしています。

共通一次試験で国語の入試問題に感動してそのまま本屋に走っていった

『編集ども集まれ!』の中で、藤野さんが好きな漫画や漫画家さんについて書かれていらっしゃるのを、私も共感しながら読みました。そこで小説についておうかがいします。影響を受けた小説や、今でも繰り返し読みたくなる小説はありますか?(40代女性)

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藤野 たくさんあるんです。最近わりと読み返したなというのは、三浦哲郎さんの鳥寄せの話。『木馬の騎手』に入っている短篇です。以前共通一次試験で試験問題になっていて、そこで感激してそのまま本屋さんに走って買って読んだ本です。三浦さんの短篇はそこから好きになっていっぱい読ませていただいています。

『編集ども集まれ!』の中にアーヴィングの『ガープの世界』とアンディ・ウォーホルの日記が出てきますが、それは本当に失職中に読んでいました。「会社を辞めて、漫画からは遠ざかったんですか?」とよく言われるんですけれど、失職中に繰り返し読んだのが漫画ではなく小説だったのは、自分はたぶんもう漫画の世界にいられなくなったという気持ちがあったんだと思います。今は手塚先生を日々読み返しています。

◆藤野さんの大ファンです! いつも温かい文章を書かれる藤野さんですが、どんなお部屋に住まわれているのでしょうか? お気に入りの家具や雑貨について教えてください。(40代女性)

藤野 うちはわりと本棚と、漫画ものの雑貨が雑多にある感じです。本にも出てきますけれど、岡崎京子さんの仕事場に行ったらアトムの顔の形をしたポットがあって、それは同じものを真似して買って家にも置いてあります。あとはウォーホルの絵とか、岡崎さんや谷口ジローさんの漫画の色紙とか。北沢夕芸さんが油絵で描いてくださった『さやかの季節』のカバー絵は玄関に飾ってありますし、この仕事を始めてから知り合うことになったイラストレーターや画家の作品も飾っています。他に雑貨ではピカチュウとか、サッカー日本代表のユニフォームを着ているペコちゃんとか。

◆人生を変えた漫画はどの漫画でしょう?(50代男性)

藤野 漫画はすごく好きでずっと読んでいたので、漫画に支えられて生きてこられたとは思います。今回の本を書いていて思ったのは、嫌なことがあっても、本屋さんで好きな漫画家の新刊を偶然見つけたりすると、すごく嬉しくなって幸せになったりするなということ。自分で「こんなに喜んでいいんだろうか」と思ったこともあったくらいで。そういう支えだったのは、やっぱり大島弓子さんとか岩館真理子さん、岡崎京子さんの作品とかですね。

◆好きなスポーツ漫画をいっぱいあげてくださーい♪(50代男性)

藤野 『エースをねらえ!』などですかね。『あしたのジョー』も全巻持っています。サッカー漫画はあまり持っていなくて、野球漫画は『あぶさん』ならちょっと持っているかもしれません。

◆藤野作品は総じてドラマチックになりすぎないよう絶妙な抑制がきいていて大好きです。本作でも漫画愛にあふれた笹子にとって天職ともいえる仕事を辞めざるを得なくなる顛末はもう少し悲劇的に描いてもいいのに、ドラマチックな方向に進もうとすると自己ツッコミが入って軌道修正されるのですか? それとも実は充分ドラマチックに書いている? それともよどみなくバランスのとれた表現がすらすら出てくるのでしょうか?(30代男性)

藤野 たぶん自己ツッコミが入っていることは入っていると思います。入れながらも、自分ではすごくドラマチックなつもりなんです。でも人によっては淡々としすぎて何だか分からないと言われることはあります。

 小説を書いているとあまり感情のコントロールができなくて、入り込むまですごく追い込んで追い込んで最終的にワーッと書くほうなんですが、冷静になって読み返すと大したこと書いてなかった、ということはたまにあります。だから小説を書く時と同じテンションで読むと自分の小説はすごく響いたりするんですけれど、一度、あまり読みも書きもしていない時の、のんきなテンションでパラパラっと読んで、これは伝わらないなと思ったことがありました。ただ、ぴりぴりと書いている時と同じテンションで読むと、本当にまるであつらえたように、自分の感情を知っているかのようで……って、当たり前ですけれど(笑)。自分の中ではそれがぴったりで、それ以上書くのはたぶん嫌なんだと思います。

「編集ども集まれ!」をぜひ朝ドラで!

◆藤野千夜さんの小説には、10代の少年少女が多く登場しますが、彼らの交わすセリフは、現役10代が書いているんじゃないかと思うくらいリアリティを感じます。それはどのような取材を重ねて書かれているのでしょうか?(30代男性)

藤野 友達の子どもがそういう世代になったりしているのを、たまに聞きかじったりするくらいです。まあ、雰囲気で書いています。偶然、街で見かけたとか。あまり取材はしていないので、不自然でなければ嬉しいです。

◆中学生の時に『夏の約束』を読んでファンになりました。同じく中学生の時に読んだ『ルート225』に感じたインパクトはいまだに忘れられません。もし自分が今突然なにか微妙に違うパラレルワールドに迷い込んだら、千夜さんの「変わってほしい事/ほしくない事」が知りたいです。(20代男性)

藤野 咄嗟の想像力が乏しくて何も浮かばないんですが、アメリカの大統領が違う人だといいかな。ただ、変わってほしいように変わってないのがパラレルワールドかなと思います。願うようにはならないと信じて生きているので。

『時穴みみか』や藤野千夜さんの公式ホームページ出張版まーくんのブログから察するに、藤野さんは大の宝塚ファンなのではと思います。いつ頃からお好きなのですか? やはり漫画の『ベルサイユのばら』を読んで、宝塚の世界に興味を持つようになったのですか? 宝塚のどこに惹かれているのか、ぜひお聞かせください。(50代女性)

時穴みみか

藤野 千夜(著)

講談社
2015年2月27日 発売

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藤野 「ベルばら」は好きでした。宝塚の公演はわりとテレビで、それこそ「ベルばら」を見たことがあったくらいで、私自身はそれほど実際に観に行った経験はなかったんですけれど。好きになったのはここ10年くらいでしょうか。雪組の水夏希さんを観に行ってハマりました。それからずっと雪組を応援しています。『るろうに剣心』『ルパン三世』と漫画原作物もいいですよね。昨年退団されてしまいましたが、早霧せいなさん、咲妃みゆさんのコンビ、最高でした。退団の日は一目見たくて、劇場の前まで手を振りに行っちゃいました。

 あと、この間木皿泉さんと対談させていただくので神戸に伺ったんですけれど、その時に前ノリして宝塚で手塚治虫記念館と宝塚大劇場に行ってきました。どちらも一度は行きたかったところだったので嬉しくて。雪組ではないですが『All for One』という小池修一郎先生演出の舞台を観て、すごく面白くて感激しました。

◆ご自身の作品の中で、今後、映像化や舞台化したいものはありますか?(50代女性)

藤野 『編集ども集まれ!』をぜひ朝ドラで(笑)。

藤野千夜さん ©榎本麻美/文藝春秋

藤野千夜(ふじの・ちや)

1962年福岡県生まれ。千葉大学教育学部卒。95年『午後の時間割』で第14回海燕新人文学賞、98年『おしゃべり怪談』で第20回野間文芸新人賞、2000年『夏の約束』で第122回芥川賞を受賞。

◆◆◆

※「作家と90分」藤野千夜(前篇)──80年代の漫画編集部の熱気と喧騒「編集ども集まれ!」──も公開中! bunshun.jp/articles/-/5966

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