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連載高野秀行のヘンな食べもの

2018/01/30

 早速、翌日、水牛の生肉を出すという食堂を訪ねた。場所はカトマンズの町から東へ十五キロほど行ったところで、なんと世界遺産バクタプルの中にあった。十五世紀から十八世紀にかけて栄えた三王国の首都の一つだ。チベット風な古い寺院や町並みがそのまま残っている。ブータンを舞台にしたベルトルッチ監督の映画「リトル・ブッダ」はここで撮影されたという。ミランさんの家は先祖代々続く司祭の家系。お父さんはバクタプルで最も尊敬される司祭だそうだ。ちなみに、司祭をつとめるのはバラモンのカーストに限られるが、このカーストはなぜか水牛を食べてはいけないという。だから、ミランさんも水牛料理は食べない。食べない人が料理を案内してくれるというのも妙な話である。

水牛の異物料理尽くしと高野氏
水牛異物料理をガイドしてくれたミランさん

 世界遺産なので外国人は入場料千五百ルピーをとられる。水牛肉のためにカネを払っているのは私だけだろう。食堂は世界中から来た観光客や土産物屋であふれる道からほんの三メートルばかり入った路地にあった。なぜか、昼飯どきなのに店は木の扉で固く閉じられている。

 ミランさんが外から電話してやっと開けてもらった。中は狭くて薄暗く、ミャンマーやバングラデシュの田舎の片隅にあるような食堂。しかし、おかみはゴールドに赤の模様をあしらった服を身につけ、お洒落でキリッとした姉御風の美人。なぜ、こんなところにこんな人が? と思う。

世界遺産で居酒屋を営む美人女将

 目が慣れてくると、得体のしれない食材とも料理ともつかないものが視界に入ってきた。真っ赤なプディングみたいなもの、真っ黄色の太いゴム紐のようなもの……。一体何なんだ、これは?(以下、次号