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連載春日太一の木曜邦画劇場

春日 太一
2018/01/30

伊賀の忍者をなぶり嗤う若山富三郎、圧巻信長!――春日太一の木曜邦画劇場

『忍びの者』

1962年(104分)/KADOKAWA/2800円(税抜)/レンタルあり

 昨年末、とある雑誌の取材で伊賀に行った。伊賀といえば忍者の里。急峻な山々が織り成すさぞや厳しい自然環境なのだろう――と想像していたら、違った。なだらかな丘陵に囲まれた広々とした平地。実に牧歌的な盆地だったのだ。

 伊賀は戦国時代、群雄が割拠する中でも忍者のみが自治してきた。外敵から故郷を守る上で平地部に入られてはひとたまりもない。外側の丘陵で、地の利を活かしたゲリラ戦をもって迎え撃つ。そのために発達したのが忍術だった。

 織田信長は二度にわたり、そんな伊賀へと侵攻している。「天正伊賀の乱」である。

 一度目は忍者たちの戦術に嵌り敗北を余儀なくされたが、二度目は対策を十分にとって大軍をもって平地での決戦に持ち込み、忍者たちを壊滅させた。平地にあって多勢に無勢では、術をもってしても、戦いのプロたる武将たちを前に成すすべがなかったようだ。実際の戦場を巡り、「城」「砦」とは名ばかりの伊賀の簡素な拠点を目にして、そのことを実感することができた。

 今回取り上げる『忍びの者』では、第二次伊賀の乱での忍者たちの無力さが描かれる。

 伊賀侵攻を企む信長(城健三朗=若山富三郎)に対し、伊賀の上忍・百地三太夫(伊藤雄之助)は暗殺せんと配下の下忍たちを派遣するが、ことごとく打ち取られてしまう。そうした中、主人公の下忍・石川五右衛門(市川雷蔵)は三太夫の命で敵地へ潜入する。

 とにかく、若山の信長が強烈だ。捕えられた忍者たちは信長の前に引き出されて拷問が科せられるのだが、それは口を割らせるためではない。信長自身が楽しむためなのだ。

「埋めてしまえ。首から上は出してな。できるだけ、死ぬ苦しみを長引かせるのだ」と女忍者を生き埋めにさせ、「ただ責めたぐらいでは口は割らんぞ」と捕えた忍者の耳を自らの手で削ぐ。そんな信長を、若山はいつも黒猫を厭らしく抱きながらサディスティックな笑みを浮かべて演じ、その残虐さをより強調していた。

 いかなる攻撃も通用しない上に、負けたら地獄。そんな最強の信長を喜々として演じる若山の巨大なシルエットを見ていると、「魔王」と恐れられた信長の姿そのものに思え、「これではいくら忍者だって絶対に敵わない」という恐怖を観る側に植え付けてくる。

 そして、主人公による暗殺も失敗に終わり、伊賀は蹂躙される。しかも本作の信長らしく、容赦なく無惨に――。

 本作を観た後で実際に伊賀に行ってみると、その広大な平地を目の当たりにしながら「ここであの信長を迎え撃つのか――」という当時の忍者たちの絶望感を追体験できるので、ぜひ試してみてほしい。