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連載歴史・時代小説の歩き方

大矢 博子
2016/06/04

大喜利ですがなにか
――川柳はこうして広まった

genre : エンタメ, 読書

 先月、ツイッターで「文庫川柳」なる企画が盛り上がった。始めたのは盛岡市にあるさわや書店本店さん。お店で開催しているフェアにちなみ、ちくま文庫のタイトルを組み合わせて川柳にしてみたという。それが

酒呑まれ   (大竹聡・ちくま文庫)
酒場めざして (大川渉・ちくま文庫)
から騒ぎ   (シェイクスピア・ちくま文庫)

 である。これは面白いってんで、愛書家たちがこぞって自分の蔵書で川柳を作り、写真とともにツイートし始めたのだ。傑作をまとめたサイトも幾つかできているほどだが、これの面白さは、その人の蔵書傾向がわかるという点にある。たとえば文藝春秋の「本の話web」の中の人は、当然のように文春文庫で繰り出してきた。

片想い    (東野圭吾・文春文庫)
とり残されて (宮部みゆき・文春文庫)
蝉しぐれ   (藤沢周平・文春文庫)

 東野圭吾、宮部みゆき、藤沢周平という国民的ベストセラー作家で固めてくるあたりが文春である。手堅い。そしてあざとい。だが句の内容はめちゃめちゃ切ない。泣きそうだ。出版社の中の人が自社の本を使って作った川柳がこれでいいのか。社のイメージアップにつながるような、明るくて前向きな川柳はできなかったか。辛いことでもあったのか。

 もうひとり、文春の中の人の作品を紹介する。スティーヴン・キングやジェフリー・ディーヴァー、『その女アレックス』など大ヒット翻訳ミステリーを多く手がける敏腕編集者N氏の文庫川柳である。

追いつめる (生島治郎・講談社文庫版)
それから  (夏目漱石・新潮文庫版)
人類皆殺し (トーマス・M・ディッシュ・ハヤカワ文庫)

 待て待て待ていっ! いくらミステリー担当とは言え、程度ってもんがあるだろうがよ。なにこの良識クソくらえな句。容赦も救いも自社文庫もない。愛社精神より趣味優先か。あ、でも、ちょっと「週刊文春」ぽいような気も……。とまあ、ことほどさように文庫川柳には人柄と趣味が出るのである。しかし待てよ、川柳って、そもそも何なんだろう?

【次ページ】川柳の始まりはアイディア勝負の「前句付」

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