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自分が患者になったことで実感した、医療の驚くべき進化 医者が体験した「治る治療」

2018/05/03
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 そこで驚いたのは、まず、

「2週間かけて設計をします」

 と言われたこと。つまり病巣にピンポイントで放射線をあてるために、どの方向からどのくらいの線量を照射するのか、コンピュータのプログラミングをするというのです。

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 放射線があたったところは、正常な細胞や組織にダメージを与えてしまいます。病巣にとどくまでに通過してゆく部位が火傷するのです。ですから、一方向から病巣が消えるほどの放射線をあてると、肺の正常組織がダメージを受け、大きな副作用に悩まされることになります。それを避けるため、さまざまな方向から適切な線量の放射線をあて、それが病巣でぴったり重なって、効果的にがんだけを叩くというのが、今の放射線治療のやり方です。それを、厳密にやるために、コンピュータで計算して、三次元の見取り図を描いてからあてるわけです。

©iStock.com

 実際、この方法でやってみると、午前中は大学で仕事をして、午後に治療を受ける、ということを週に4日間続けるだけなので、仕事には何の支障もありません。

 放射線治療が終わって2カ月、CT検査を受けました。その結果、がんは完全に消えていました。ところが、翌年の9月、再び肺への転移が見つかりました。この時は何の不安もなく放射線治療を選び、前回と同じようにがんは完全に消えました。

 このように最初に手術をし、退院した日から今日まで3年半、大学を休んだ日は一日もありません。学長として目ざしていた、学生募集の目標も達成できました。もし私の病ががんではなく、脳梗塞だったらこうはいかなかったでしょう。

 転移や再発でも、早期に発見し、適切な治療を行えば、日常生活を変えずに暮らしてゆくことが可能な時代になったことを痛感しています。

2020年に東京オリンピックを

 このように2年続けて肺に転移したが、2014年は何事もなく過ぎました。本稿を書いている2015年1月末の段階で、私は元気で暮らしています。

 浅井先生は鎌ケ谷総合病院に移られましたが、バトンタッチした松本文彦先生と伊藤先生のおかげです。

 もちろん転移や再発を考えないことはありません。しかし、この3年間の経験を踏まえると、たとえ転移や再発があっても、適切に対応していけるように思います。

 がんが発見された2011年9月の時点では、2012年のロンドンオリンピックを観ることはできないかもしれないと思いました。病床ではメジャーリーグのワールドシリーズが流れていたのですが、私が若い頃留学したセントルイスの球団、カージナルスがワールドチャンピオンになるのを観ながら、スポーツで喜んだり悲しんだりするのもこれで最後と思いました。ところがいまではリオオリンピックまでは行けるんじゃないか、ひょっとしたら2020年の東京オリンピックも観られるかも、と思うようになりました。

 がん治療はそれだけ進歩したのだと、あらためてかみしめています。

自分が患者になったことで実感した、医療の驚くべき進化 医者が体験した「治る治療」

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