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声を残す選択をどう考えるか――頭頚部がんの名医 藤井隆医師

2018/05/17
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ケモラジのデメリット

――それでも声を残したいからと、ケモラジを受けられる方もおられますよね。

 はい。ただしケモラジを受ける場合には、そのデメリットについても、よくご理解いただく必要があると思います。まず、ケモラジには、がんとの相性があります。3期以上の進行がんでは、期待した効果が得られるのは半数以下で、救済手術が必要となります。どちらになるのか、今のところ事前に予測することができません。

 また、放射線治療の初めの時期は痛くも痒くもなく、手術に比べると楽に感じるかもしれませんが、回数が重なると喉が焼けて痛くなり、痰がうまく出せずに肺炎になる人もいます。ケモラジの場合には抗がん剤の副作用もあるので、かなり体に負担がかかります。高齢者では最後までやり遂げられない可能性もあり、そうなると期待した効果が得られません。

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 それに、最後までケモラジを完遂できたとしても、再発することがあります。ですから、その場合の救済手術のことも考えておかねばなりません。再発がんが背骨や頸動脈にくっつくと手術できないので、再発したとしても取れそうな場所にあるかどうかを事前にチェックしておく必要があります。

 最後に、後遺症も覚悟しておかなければなりません。放射線を頸にかけると、いったん焼けた脂肪が冷えて固まったような状態になるため、コルセットを頸に巻いた感じになるのです。頸が回りにくくなるだけでなく、肩こりが続く状態になる人もいます。そのうえに救済手術をすると傷が癒着して、さらに頸が回りにくくなります。手術だけなら徐々に回復しますが、放射線をかけた頸は、固くなったまま中々緩みません。

――それだけに、ケモラジを受けるなら、放射線治療科だけでなく、バックアップ体制も要りますね。

 その通りです。抗がん剤の専門家である腫瘍内科医がいたほうがいいですし、救済手術は通常より難しいので、経験豊富な頭頸部外科医がいないと困難です。

 また、喉頭がんや下咽頭がんに限らず、頭頸部がんは放射線をかけることが多いのですが、副作用で唾液腺が障害を受ける場合があります。実はこれが患者さんに大きな影響を与えます。唾液がないとひどい虫歯になりやすく、重症の場合は顎の骨まで蝕まれて、骨髄炎になることもあるのです。

 ですから、放射線をかける前に虫歯を治療し、治療後も口腔ケアを指導するのに、口腔外科医(歯科医)や歯科衛生士の協力が欠かせません。さらには、飲み込みのリハビリなども必要ですから、こうした専門職のスタッフが連携して治療にあたる医療機関にご相談することをおすすめします。

――ケモラジも厳しいですが、手術で声を失うのもつらいですよね。

 声が出せなくなるだけでなく、匂いを感じたり、麺をすすることも難しくなります。また気管孔(空気を取入れるため頸に開けた穴)に水が入ると咳き込んだり、窒息したりするため、首までお風呂に入ることができません。