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声を残す選択をどう考えるか――頭頚部がんの名医 藤井隆医師

2018/05/17
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喉頭摘出のメリットとは

 ただ、デメリットばかりではありません。放射線をかけていない人には、先に述べたような後遺症は起きません。それに食べ物の通り道と空気の通り道が分かれるので、高齢者では誤嚥性肺炎のリスクがなくなります。進行した喉頭がんの患者さんで、喉頭摘出をした人と、ケモラジで温存した人たちの亡くなった年齢を比べると、前者のほうが4歳も長生きされていたことが最近わかりました。

©iStock.com

 高齢者では、奥さんがよくしゃべって、ご主人は寡黙でうんうんと聞いているだけ、といった感じのご夫婦もおられますよね。そのせいか、喉頭摘出にあまり抵抗感を示されない高齢者もおられます。

 それに電気式人工喉頭や食道発声法、気管食道シャント術など、言葉を出せる方法もいろいろあります。同じ病気で喉頭摘出した方がボランティアで教えてくださるので、心の支えにもなるでしょう。

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――喉頭を摘出するかどうかは大きな決断です。適切な選択をするには、どうすればいいでしょう。

 何を一番重視して、どこまでは譲歩できるのか、治療後はどんな生活をしていきたいのか、こういう点をはっきり医師に伝えることが最も大切です。「命より声が大切だ」という人もあれば、「いま死ぬわけにはいかない」という人もいます。また「ご飯がおいしく食べられたら、それでいい」という人もいます。私たち頭頸部がん専門医は、患者さんの思いをできるだけ実現するように考え、最大限の努力をしています。

 病院を選ぶときも、患者さんの話をしっかり聞いてくれる医師のいるところを選ぶべきだと思います。ご自身が考えていることを遠慮なくどんどん言ってください。それが後悔の少ない、未来志向の治療につながるはずです。

声を残す選択をどう考えるか――頭頚部がんの名医 藤井隆医師

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