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都心不動産が値上がりしているカラクリ

海外投資家が見ているのは将来性でも需要の高さでもない

2018/02/06
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 メディアではすでに平成バブル時に匹敵するほどの値上がりを見せている日本の不動産の現状について「上がりすぎた」「もうバブルが弾けるのではないか」といった論調が強くなっている。

 たしかに、不動産事業を営む私からみても、なにやら最近の取引は壮大なチキンレースが行われているようにも映る。

 ところが海外投資家による日本の不動産買いにはブレーキがかかるどころか「加速」しているというのはいったいどういうことだろうか。

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 彼らから見れば、まだまだ日本の不動産には「余力」があるというのだ。「余力」という意味は、日本がこれから世界的にもおおいに成長するだろうとか、オフィスやマンションの需要が大量に発生するだろうなどということではない。

彼らが見ているのは「イールドギャップ(利回りの格差)」というやつだ。投資利回りというのは同じ100億円の価値があると投資家が思うビルでも東京は3%、大阪は4%、香港は2.5%など利回りが違う。この差をイールドギャップという。

素人が誤解しがちな投資のイロハ

 投資を行う場合、利回りが低いものほど安全性が高いと判断される。逆にリスクが高い運用先には高い利回りを求めるのだ。利回りは「高いほうが良い」と素人ほど考えがちだが、リスクと利回りは逆相関の関係にある。

リスクと利回りは逆相関の関係にある ©iStock.com

 国内でもっとも安全な債券といわれる日本国債のレートは、現在10年物利回りで約0.05%という「豆粒」のような水準にある。国債が最も安全性の高い運用先とすれば、不動産の利回りは国債に比べてどの程度の利回りであれば「安全」であるかを判断して、投資家は不動産を買っている。彼らは不動産利回りと国債レートの差額を「リスクプレミアム」と称し、投資を行う際の判断材料にしているのだ。

 この理屈でいえば、たとえば東京のオフィスビルの利回りが3%ならば、日本国債のレートと比較して東京の不動産は2.95%のリスクプレミアムが乗っていると判断するのだ。

投資家は利回りの「差」に着目している

 このリスクプレミアムの幅は、当然東京と大阪では異なるし、その時々の世界情勢や今後の見通しに応じて「伸びたり縮んだり」する。現在はどちらかといえばリスクプレミアムに対してポジティブ(積極的)=リスクプレミアムは小さくてよい、という状態にあるのが海外投資家の日本に対する見方なのだ。

 彼らは結局どうやって儲けるのかといえば、3%の利回りで仕入れた東京のオフィスビルの権利を今後2、3年後の間に、利回りが2.5%でも買う(楽観的な)投資家がでてくるとみていて、その投資家に売却することで利益を確保するのだ。

 簡単なモデルで説明しよう。東京中心部のオフィスビルを100億円、3%の投資利回りで買うとする。この投資の意味は100億円支払って買ったビルから毎年、諸経費を除いた利益3億円が手元に残るということだ。3億円の年間利益しか出なくても価値があるとみなすのは、たとえば数年後、同じ3億円の年間利益のビルを120億円払ってでも買いたいという投資家(つまり3億円÷120億円=利回り2.5%になる)が現れる可能性があると考え、そうなれば彼らにとっては差し引き20億円もの利益を手にできると想定できるから「買い」という判断を行うのである。この20億円こそが利回りの差(イールドギャップ)による利益だ。

 もちろん、3億円だった年間利益が賃料などの上昇で4億円に上がっていれば、投資家目線としては同じ3%の利回りを求める投資家から見れば133億円(4億円÷3%)で買ってもよいと判断するわけだ。