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ユニクロ潜入でわかった、ジャーナリストが当事者になるべき理由

横田増生×佐々木俊尚 『ユニクロ潜入一年』を語る(前編)

note

 佐々木 ジャーナリストが第三者として話を聞いていくという手法には、どこかで限界にぶつかるタイミングがあると思っています。最終的には自分が「当事者」になるしかない。

 横田さんの前著『ユニクロ帝国の光と影』(2011年)はユニクロ関係者への取材を重ねた力作でしたが、やはり守秘義務の壁もあって、証言を引き出すのに苦労された様子が文章から伝わってきました。だから、今回ユニクロのアルバイトとして潜入することになった流れは、個人的な体験からもとてもよくわかる気がしました。

 横田 「百聞は一見にしかず」という言葉通りですね。何人もの関係者から話を聞くよりも、一度店舗で働くとか、ドライバーと一緒に宅配便業者のトラックに1日ずっと乗りこんだ方が、どんな仕組みの商売なのか、はるかによくわかりますから。

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毎週、社内報で柳井語録を読むのが心の支えだった

 佐々木 とはいえ、1年間の潜入取材ともなると、生半可な覚悟ではできません。先行きの見通しが立たない状態での覚悟は、どこから出てきたのでしょうか?

 横田 出発点は怒りでしたね。本書の冒頭にも書きましたが、僕の前著『ユニクロ帝国の光と影』がユニクロに名誉毀損で訴えられたものの、最高裁まで争った結果、文藝春秋側が完全勝訴しました。

 佐々木 いわゆるスラップ訴訟、ジャーナリストに対する恫喝的訴訟ではないかと話題になりましたね。

 横田 はい。裁判中は係争中ということもあってユニクロの決算記者会見には出席できませんでしたが、判決後には、決算記者会見に出席できるかもしれないという流れになってきたんです。ところが、当日になって「やっぱり出席はダメです」とユニクロの広報担当から電話がかかってきた。

「柳井から、横田さんの会見への参加をお断りするようにとの伝言をあずかっています」

 と。そのときはもう「ふざけるな」と激怒しました。なぜ株式公開企業の決算会見に出られないのか。しかも、裁判ではこちらの言い分がほとんど認められたわけですから。相手は、そう言いさえすれば、僕がユニクロの取材から手を引くだろうと思ったのでしょう。こちらとしても、その場で引き下がった方が楽かもしれませんが、あとになって後悔したくなかった。

ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正社長兼会長 ©getty

 佐々木 大変な思いをしながら、慣れない肉体労働をするわけですよね。途中で心がくじけるような場面はなかったですか?

 横田 いやー、毎週、「部長会議ニュース」という社内報がユニクロの店内に張り出されるんです。そこに載っている柳井語録を読むのが心の支えでしたね(笑)。「また面白いこと言ってるなぁ」と思いながら、メモ帳に書き溜めていったりした。それから、アパレルや接客業はこれまで遠い世界のことだったので、現場で働いてみる経験は意外と新鮮で楽しかったですよ。