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ユニクロ潜入でわかった、ジャーナリストが当事者になるべき理由

横田増生×佐々木俊尚 『ユニクロ潜入一年』を語る(前編)

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「週刊文春」誌上で大反響を呼んだ「ユニクロ潜入ルポ」をもとに、1年にわたるユニクロ店舗への潜入取材の全貌を書き下ろした横田増生氏の『ユニクロ潜入一年』。――ユニクロの内部では何が起きていたのか。また、SNS時代に求められるジャーナリズムの役割とは何なのか。

 横田氏が、フリージャーナリストとして活躍する佐々木俊尚氏と語り尽くした。(全2回)

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 佐々木 『ユニクロ潜入一年』を拝読しました。ジャーナリズムの王道であり、読み物としても面白い。素晴らしい本でした。

 横田 ありがとうございます。

 佐々木 今回、私が対談相手として指名されたのは、ジャーナリストとして「潜入取材」からもっとも遠いところにいるという判断だと思うんです(笑)。

 横田 もともと毎日新聞にいたことは知っていますが、どちらかといえばインターネットビジネスの専門家というイメージが強いですね。

『ユニクロ潜入一年』の筆者・横田増生氏

最近の新聞記者は制約が多い

 佐々木 ちょっと自分の話になりますけれど、潜入取材的なことはいくつか経験しています。特に記憶に残っているのは、毎日新聞で社会部記者をやっていた1990年代の半ばに歌舞伎町で起きた中国人の抗争事件を取材したときですね。社会部は基本的には警察取材ですから、どこを取材すればいいのかもわからない。快活林っていう飲み屋で2人くらい青龍刀で殺される事件があって。夕方に出勤して、朝まで取材っていう生活を2カ月ぐらい続けました。当時、毎日新聞が歌舞伎町に東京西支局という取材拠点を持っていたんです。

 横田 歌舞伎町に支局があるのはいいですね。

 佐々木 いまはもうなくなりましたが、新宿の職安通り沿いにあった雑居ビルの2階にあって、出勤すると共同トイレに血溜まりができているようなところでした。「昨晩、何があったんだ?」と驚いたことも一度や二度ではありません。それで、いまだから話せますが、当時いろいろとツテをたどって住吉会に知り合いが1人できたので、その人から「お前は今日から、台湾人のリュウと名乗れ」と言われて、1カ月半ぐらい付いて回ったことがあります。

 横田 まだ新聞社がそういう変則的な取材ができた、いい時代ですよね。最近はなかなか制約が多いようですから。昨年、朝日新聞の記者が宅配業者の同乗ルポをやっているのを読んで、「よく企画が通ったな」と思いましたが、例外的なケースでしょうね。

毎日新聞出身のジャーナリスト・佐々木俊尚氏

 佐々木 訴訟リスクをどう回避するか、それが優先課題になっている。

 横田 最近の新聞を見ていると、そもそも訴訟されることを回避しようとしている節があります。「訴訟されても勝てる記事を書く」のではなく、「訴訟を起こされたらダメ」というマインドなので、危ない橋は一切渡らないように見えます。

 佐々木 被災地や海外の紛争地域の取材でも、ある程度リスクが高くなると、日本の新聞社は真っ先に現場から撤退するという動きが当たり前になってしまっています。本来ならば、組織ジャーナリズムのほうがリスクを引き受けやすい。組織のバックがあって、何か起きたときには記者の生活の面倒を見ることもできますし、法的な対応も可能です。

 横田 そうですね。ただ、大手新聞がやらないからこそ、雑誌を主戦場にしている僕のようなフリーのジャーナリストが入り込める余地があるとも思っています。人材や資本が豊富な新聞やテレビが本気でやりだしたら、隙間の仕事がなくなってしまいますから。