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嘉門タツオさん、北九州市を語る「小倉『田舎庵』の鰻に北九州人の情熱を見た」

「市制55周年 GO!GO!北九州市」特集

小倉『田舎庵』の鰻に北九州人の情熱を見た

 
 

 20年くらい前かな、「食べ物を一つ語るとしたら、何ですか?」という新聞社の取材をうけたんです。カレーのひともいれば、ラーメンのひともいたんですが、ぼくはそのとき「鰻」と答えたんです。もともと好きでしたからね。でも、そう答えたものの、鰻に関して、東は背開きで、西はお腹から割く、そういう一般的な知識しかなかった。鰻についてあまりに自分が知らなさ過ぎることに愕然として、蒸し加減、焼き加減、たれの甘さ、辛さの違いがちゃんとわかるようになりたいと、半年くらい集中的に全国の鰻を食べ歩いたんです。

 各地の名店をまわるなかで、出会ったのが小倉の『田舎庵』さんでした。『田舎庵』では、地焼きだけでいっさい蒸さない。ぎりぎりまで火を通してやることで、身が凝縮し味がぐっと濃くなるんですね。その香ばしさといい、歯ごたえといい、おっ、これはスゴイ、と思いました。

 そのことを新聞に書いたら、ご主人の緒方弘さんがお礼の電話をくださったんです。「また来てください」と。それがきっかけで、お店にお邪魔するたびに、緒方さんから鰻についていろいろ教えてもらいました。例えば、客の顔を見てから鰻を割くのが本物とよく言われるけれど、割いたものを少し冷蔵庫に寝かしたほうが味が出るとか、天然がよくて養殖がだめというわけじゃなくて、養殖でも、普通の池でストレスなく2年ぐらい自由に泳がせて育てた路地ものは天然に負けない美味しさだとか。実際に「これはどこそこの養殖ものです」って蒲焼きと白焼きを用意してくれて、味を確かめてみたりもしました。

 ぼくのなかでの美味しいものの基準は、作り手の人生や哲学がそこに反映されているかどうか。そしてどんな物語がそこにあるのか。そこなんですよ。メダカがエサを食べるみたいに、「お腹がふくれたらいい」じゃ、面白くないじゃないですか。料理のことを知りたいし、聞いたらちゃんと答えが帰ってこないと面白くない。ここ10年、20年の傾向で、それぞれ産地を出すというのがあるでしょう。牡蠣でも、これはどこそこの牡蠣です、とかね。まあ、そこまで別に言わなくてもいいのかもしれないけど、そこはやっぱり知りたいですよね。雲丹でも産地によって食べている海草の種類がちがうから、全部、味が変わってきますから。その点、緒方さんの知識はすごい。日本でいちばん鰻にくわしいじゃないかな。『田舎庵』の鰻は、まさに緒方さんの人生そのもの。食に対する情熱に圧倒されます。あの熱さは北九州人ならではかもしれませんね。

 
 

 ぼくも『うな太郎の大冒険』という曲を作りました。♪ぼくはうなぎのうな太郎 栄養満点オイシイよ! 太平洋マリアナ海溝からはるばる日本までやってきた鰻たちと『田舎庵』緒方さんへのエールです。

シンガーソングライター
嘉門タツオさん
シンガーソングライター
嘉門タツオさん

嘉門タツオ/かもん・たつお 1959年大阪府生まれ。高校在学中、笑福亭鶴光師匠に入門するが、のちに破門。その後、ライブ活動を始める。83年『ヤンキーの兄ちゃんのうた』で歌手デビュー。『鼻から牛乳』『替え唄メドレー』などのヒット曲多数。グルメとしても知られる。

衣・食・住・自然……魅力あふれる北九州市をもっともっと応援したい。各界著名人の方々からメッセージが寄せられています。


◆「市制55周年 GO!GO!北九州市」特集