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働いてわかった“デフレ・ビジネス”ユニクロの限界

横田増生×佐々木俊尚 『ユニクロ潜入一年』を語る(後編)

note

“昭和脳”の発想では現代の経済はイメージできない

 佐々木 一部ではいまだに“昭和脳”の発想が支配的で、「物価高はけしからん」みたいな議論になる。昭和の時代のイメージで語れるほど社会も経済も単純じゃないので、物価が上がったほうが経済は成長するんだっていう、皮膚感覚でわかりにくいマクロ経済理論をちゃんと理解しないといけない。その変化についてこれない昭和脳の人たちが、最近の情勢に怒っているんじゃないかと思います。

 横田 その点、デフレという特殊な経済環境を追い風に成長してきたでユニクロは、大きくマインドを変えていかないと、今後の経営はしんどい気がします。

 佐々木 商品を値上げしたのも、その一環と言えますね。

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 横田 ただ、「品質に見合った正価をいただきたい」と言って2015年から2回にわたって値上げしたものの、結局、消費者がそこまでの価値を認めなかった。ユニクロ離れが起こり、業績が一時的に悪化しました。その点は宅配業との違いです。

にぎわいを見せるユニクロ銀座店 ©文藝春秋

 佐々木 いつも思うんですが、ユニクロって値段のわりにサービスよすぎませんか。あるいは、地方に行って、夕ご飯食べるために回転寿司のチェーン店に入ると、ひざまずかんばかりの接客をされて驚くこともあります。おしぼりの袋を破って、半分剥いて差し出すとか……。一皿100円のお寿司ですよ。ああいう過剰サービスを提供して、それを安い人件費でこきつかうことが、ここ20年で当たり前になってしまっていた。消費者の方も慣れちゃっているのは問題じゃないかと思います。

 横田 ユニクロは、時給1000円で働くアルバイトに対しても「全員経営」なんて言うから、それも非常に問題だなと思っています。でも、もともとのユニクロはロードサイド店だったんです。「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」という名前で、倉庫のような店頭にバーッと服が並べてあって、それをお客さんがレジに持っていくというセルフサービスのスタイルで始まったんです。だから商品の点数も今ほど多くなかったし、店員の数もそんなに必要なかった。

 佐々木 最近だと、新宿のビックロに行くと、どこに何があるのか、まったくわからないですね。

 横田 わからないですよ。ずっと働いていればわかりますけど、お客さんがパッと入ってわからないような配置になっています。だから多くのお客さんは、店員に「この商品はどこにありますか」と聞きたくなるわけです。店舗が大きくなって、商品ラインナップが複雑になればなるほど、店員に対する負荷は大きくなっていくんです。ビックロで僕が働いていたときも、レジから出ていってお客さんの対応をして、またグルッとレジまで戻ろうとすると、何組ものお客さんに捕まってしまう。「これ、どこにあるんですか」「ニットはどこですか」って聞かれる。早くレジに帰してくれー、って心の中で叫んでいました(笑)。

 佐々木 今後を見据えると、ビジネスモデルを根本から変えないと生き残れませんね。

 横田 この変化をすべて労働者に担わせましょう、という動きだけでは対応できません。その点は間違いなく破綻しつつあると改めて感じています。

 

写真=白澤正/文藝春秋

ユニクロ潜入一年

横田 増生(著)

文藝春秋
2017年10月27日 発売

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