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新直木賞作家、「対談の作法」を教わりにゆく 山崎正和×門井慶喜

座談の名手がたどり着いた境地とは?

当代きっての座談の名手である山崎正和さんのもとに、『銀河鉄道の父』で1月に直木賞を受賞した門井慶喜さんが対談の秘訣を学びに参上。そして、二人の話は“武の国”ではなく、“文の国”であるこの国の未来へ──。

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私の考える「座談の名手」

門井 学生時代から山崎さんの作品を読んできました。『鷗外 闘う家長』や、『不機嫌の時代』などの論考を読んで、青春期の暗闇の道しるべにしましたし、著作集も全巻読破しております。

山崎 えぇ!

門井 そして、山崎さんといえば座談の名手。丸谷才一さん、木村尚三郎さんとの「鼎談(ていだん)書評」をはじめとした座談、対談における、軽妙なやりとりの中に込められた含蓄ある言葉は忘れられません。そんな山崎さんと対談ができるなんて感無量です。私は先生のインタビュー記事があると切り抜いているくらいですから……。(ソロリとスクラップブックを差し出す)

山崎 これは新聞のインタビューですね。わざわざありがとうございます。

門井 本日伺いましたのは、その山崎さんに、「対談の作法」について教えていただけないかと思いまして……。

山崎 とんでもない。

門井 いえ、本気なんです(笑)。最近、私自身が雑誌などで対談する機会が増えまして。山崎さんといえば、なんといっても、丸谷才一さんと数多く対談をなさっていますよね。

丸谷さん、司馬さんという対談の名人

山崎 二人で話した鼎談や対談を数えたら百十何回あって、ギネスブックものでしょうね。丸谷さん自身が対話の名人ですし、気性も合いました。もう一人、安心して対談の席に臨めたのは司馬遼太郎さんです。

山崎正和さん ©文藝春秋

 実は、門井さんとお目にかかるにあたって「対談」について考えたんですが、まず対談を仕事にするなら、一種の運動神経がいるでしょうね。対談の場で10秒も沈黙が続くと耐え難いものです。だから10秒空いたら何でもいいから一言パッと口にして、その場を繋ぐ力が必要なのです。もう一つは対談をうまくやるには、お互いに事前の準備が必要だということ。ただ、難しいのは準備をし過ぎてもいけない。ある程度成り行きに任せないと、面白い話になりません。両者が自己主張していたら、会話がどこへも行きつかない。そういう流れに乗る感覚が大事ですね。これも運動神経の一種でしょうね。

門井 なるほど。これは具体的なアドバイスですね。

山崎 対談を円滑に進めるには場所も重要です。かつては出版社も太っ腹で対談、座談会は料亭や高級レストランでやることが多かった。そうすると和食と洋食を選ぶことになりますが、それは断然和食がいい。

門井 なぜ和食なんですか?

山崎 何しろ畳ですから、資料をあちこちに広げることができる。そして、洋食はコックさん次第で料理が出てきますが、和食は話の具合を見て食事を進めてくれるのも塩梅がよい。もちろん、程度の問題ですけど、和食なら「冷えますからすぐに食べてください」なんて言わないでしょ。日本で対談が雑誌の主流になったのは、和食があったからかもしれません(笑)。

門井 ますます具体的だ(笑)。

山崎 細かい話ですが、対談の場では2、30分経ってから食事を出してほしいというお願いもしていました。対話の流れが出来てから料理を食べる方が話しやすいからです。お酒も、全く飲まない人よりは、少しイケる口ぐらいの方がうまくいく。グデングデンになるまで飲んでしまう人は論外。こう考えると、対談は総合芸術かもしれない。