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楠木 建
2018/02/06

楠木建が考える「読書の超絶的コストパフォーマンス」

楠木建の「好き」と「嫌い」 好き:本 嫌い:旅

 あくまでも個人的な好き嫌いの話として聞いていただきたい。

 出口治明さん(ライフネット生命創業者、立命館アジア太平洋大学学長)を尊敬している。これ以上ないほどの極上の知識人・教養人だ。出口さんは言う。「見聞を広げ思考を深める方法は人・本・旅、この3つに尽きる」。まったくその通りだと思う。

 出口さんはすこぶるフットワークのよい方で、世界各地を頻繁に旅し、古今東西のあらゆる書物を渉猟し(とりわけ歴史的古典の読み込みは尋常一様でない)、多種多様な人に会いに出かけるのを厭わない。

出口治明氏

 アタマでは出口さんの「人・本・旅」説に賛成なのだが、徹頭徹尾非活動的なタチなので、体がなかなかついていかない。僕にとっての旅は、仕事での出張を除けば、単なる休暇というかリフレッシュというか、ようするに休息の時間であり、リゾート地や温泉に行ってダラダラすることでしかない。

 この原稿を書いたらすぐに、仕事でインドのバンガロールに行くことになっている。せっかくバンガロールまで行くのだから、ついでにあちこちを見て歩いて見聞を広げるに若(し)くはなし、とアタマでは思う。しかし、そういうことがどうにも億劫なのだ。僕の予想では、今回もおそらく仕事以外は何もせずに帰ってくると思う(この予想はほぼ毎回当たる)。

 これまでの経験を振り返ってみても、人との出会いや対話はアイデアの源泉として間違いなく重要である。仕事で会う人だけでなく、もっと積極的に多様な人々と会う機会を増やさなければいけないとアタマでは重々承知している。ところが、いざとなると帰宅して寝転がるという目前のオプションの魅力には抗しがたく、ついつい機会を逸してしまう。

 たまには意を決してよく知らない人たちの集いに出かけてみることもある。ところが、「あーこれだったら家に帰ってとっくりと寝転がっていたほうがよかったな……」ということもままある。ますます出不精になり、交友範囲は狭まっていくという成り行きである。