文春オンライン

連載むらむら読書

ジミー大西の日記にみる人間の尊さ――犬山紙子「むらむら読書」

2018/02/07
note

 私にはむらむらと愛おしさが湧いてしょうがなくなる本がありまして、それが「ジミーちゃんの気持ちE~日記」であります。26年前の本でジミー大西さんの日記を誤字脱字そのまままとめたものであります。

©犬山紙子

 好きな女性ができてから、こんにゃくのおかずですらその人の顔に見えてしまって食べられなくなってしまうジミーちゃん。海岸の岩の上で寝ていたら、潮が満ちて浜に帰れなくなり泣き崩れるジミーちゃん。お金がないので(給料が入ったら風俗か競馬につぎこんでしまうため)事務所でおりがみをして一人で遊ぶジミーちゃん。何をやってもついてないから奈良の大仏さんを見に行くジミーちゃん。グリーン車に乗って気が大きくなり、いつもさん付けで呼んでいる人を呼び捨てにしたジミーちゃん。新幹線の帰りお腹が空いても弁当を買えず、トイレにずっと入って食欲をなくす作戦に出るジミーちゃん。ナンパした女性の彼氏に脅されるも、むしろお茶代を奢ってもらったジミーちゃん......。

 読み進めていると「ジミーちゃん、あんまり競馬とパチンコしたらまたお金なくなるよ」 「テレビでウケてよかったね」 「そんな接し方女の子に失礼だよ」などと母親のような気持ちになってしまい、むらむらと世話を焼きたい欲がうまれてしまう。

ADVERTISEMENT

 そしてそういった行動とともに美しい感受性がちりばめられているのです。人の冷たさを日本海のようだと感じ、夏の暑さを道路からぼんやりとうめいのキリがかかっていると表現し、悲しい時は「僕の目には涙がいっぱいで梅雨入り宣言をしました」となり、寝台列車でとなりの車両に牛がいて、寝ているとかすかに牛の鳴き声がきこえてくるので、ドナドナの歌をくちずさんでは涙がこぼれて。

 特に好きなエピソードが、一人暮らしを始めてさみしくなったジミーちゃんが花を買いに行き、そこで買ったバラに「フラワー」と名前をつけたくだりです。少しの間一緒に暮らしてお腹が減ったら食べようと思っていたそうだけど、しだいに飽きてしまい、トゲで「すききらい」の占いをして、嫌いがでた相手に電話をするのをやめたという。起承転結が全く読めない1日、そもそも人間の1日に起承転結なんてないのかもしれません。

 決して美談で作られているわけじゃないのに、この日記は人間の魅力でキラキラしている。こんなにも欲に素直で、嘘のない日記はとても貴重だと思う。植本一子さんの「かなわない」を読んだ時もその嘘のなさに対し爆裂に尊さを感じたのですが、同じくこの本にも一人の人間の尊さが詰まっているのです。

ジミー大西の日記にみる人間の尊さ――犬山紙子「むらむら読書」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文學界をフォロー