昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

猪野 憲一
2018/02/16

桶川ストーカー殺人事件「娘は3度殺された」

亡くなった女子大生・猪野詩織さんの父が語った

 平成11年、埼玉県桶川市で女子大生の猪野詩織さんが刺殺された「桶川ストーカー殺人事件」。同事件によってストーカーの孕む危険性が認知されると同時に、警察の「民事不介入」の是非や、報道被害についても議論が喚起された。父、猪野憲一さん(67)が語る。

(聞き手=ジャーナリスト・清水潔)

◆ ◆ ◆

猪野憲一さん(被害者の父)

 昨年の10月26日で、詩織が殺されてから18年が経ちました。今も納骨する気にはなれず、私と妻は詩織のお骨の隣に布団を敷いて、毎晩一緒に眠っています。

 今もふとした時に詩織の様々な姿を思い出します。特に忘れられないのは、詩織が高校生の頃のこと。「お父さん、そのワイシャツ、ヨレヨレになってきたから新しいのを買いなよ。それは私に頂戴」。どうやら女性用の丸襟ではなく、男性用の尖った襟のワイシャツを制服の下に着るのが流行っていたようです。他の子は男性用のを買っているのに詩織は「お父さんのを着る」と。年頃になっても、父親想いの優しい娘でした。

 そんな詩織が、ストーカーの部下だった男に刺殺されたのは21歳になった年の秋でした。犯人グループへの憤りはもちろん最も強いのですがそれだけではありません。

 私は、娘は3度殺されたと思っています。1度目は殺害された時。2度目は、警察に、です。地元の埼玉県警上尾警察署には、何度も相談に行っていたのですが、「民事不介入」を言い訳に、親身に対応してもらえなかった。それどころか、後に明らかになったのは、我々が出した「告訴状」を県警本部に報告義務のない「被害届」に改竄したり、虚偽の報告書を作るなどの信じがたい不祥事でした(後に署員3人に有罪判決)。

 そして3度目の殺人は、マスコミによるものです。娘は一方的に犯人側から贈られた高価なブランド品などはすべて返送しているのですが、バイト代を貯めてやっと購入した中古のプラダのリュックを引き合いに「ブランド狂いで男におねだりしていた」とか「いかがわしい店でアルバイトをしていた」などと事実無根の話を報じられました。虚偽の情報を鵜呑みにして「女性にも落ち度がある」「自業自得」などとテレビで話すコメンテーターもいました。