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10年後の『はなちゃんのみそ汁』 高校生になる娘はどう乗り越えたのか

著者・安武信吾さんインタビュー #2

2018/02/20
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「学校で嫌なこともあるんよ。でもママの苦しみに比べたら大したことないやん」

──はなさんは、大人ですね。

安武 我が家にはテレビがないので、学校で友達との話についていけず、孤立したこともあったようです。大人から見たらどうでもいいことですが、子どもにとっては死活問題ですよね。でも、僕が「今日会社でこんな嫌なことがあって、もう仕事辞めたい」などと愚痴をこぼすと、「私だって、学校で嫌なこともあるんよ。でも、病気だったママの苦しみに比べたら大したことないやん。パパもそのくらいのことは我慢しいよ」と言われてしまう。僕よりよっぽど大人です(笑)。千恵が「九州男児やろうが。しっかりせんか」と尻を叩いてくれていた役割を、今は娘が担ってくれている。一歩一歩、確実に大人の階段を上っているんですね。

──いろいろな方たちとご縁がつながるのは、お金に換えられない尊さがあります。

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はなさんと、「給食の母」佐々木十美さん ©安武信吾

安武 それもありますね。去年、2012年までの40年間「日本一」と評判の給食を作り続けてきた「給食の母」・佐々木十美(とみ)さんにお会いできたのは、はなにとっても転機になりました。当時の生徒たちが、成人式の食事会でリクエストをしたという逸話がある、人気給食メニューのカレーライスをはなも一緒に作らせてもらったんです。

 ショウガとニンニクのみじん切りを、シャキシャキという音が聞こえなくなるまで30分間続け、これを油で熱して香りを出し、小麦粉を入れてさらに炒め、さらに19種類のスパイスを入れてじっくりと練り上げる。焦げつかないように絶えずかき混ぜながら1時間練って、ようやく完成です。甘みと酸味、辛みが混然一体となった深みのある味わいで、「パパ、すごいよ、このカレー。おうちでも作りたい」と目を輝かせていたはなが、「十美さんみたいな管理栄養士になりたい」と言い出したんです。

──管理栄養士ですか。すばらしい!

安武 でも、管理栄養士になるためには、大学へ行って国家試験に受からないといけないんですよね。「勉強は二の次でいい。健康で、生きる力が身についていれば、将来どこに行っても、何をしても生きていける」という千恵の言葉を愚直に実践してきたので、基礎から徹底的に勉強をし直さないといけないのが大変でした。はなは「塾に行きたい」と自分から言い出し、必死で勉強しています。