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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2018/02/13

「は?!」である。だって白い煮こごりなのだから。見てくれは牛乳プリンっぽい。「ミルクでしょ?」「いえ、ミルクじゃない。血です」「血じゃないでしょう」としばし押し問答。するとミランさんは自分の首筋を人差し指でたどりながら、「ここを通っている白い血」と言う。それはもしやリンパ? よく知らないが、老廃物が流れるところと聞いた憶えがある。目の前にあるものは元は液体というから、器官ではなくリンパ液か。

水牛のリンパ液プディング(調理前)

 あとでネットで調べると、無色透明な液体で白血球を運んでいるという。そればかりか、「不要になった老廃物や蛋白成分・ウイルスなど病原体を回収しながら、集合リンパ管(リンパ管)を通して心臓へ送る下水道の様な役目をする液体のこと」とも説明されていた。いいのか、「下水」を料理して食べて。日本の保健所もビックリだろう。

 私の驚き顔にギタ姐さんはフフフと笑い、鍋からプリンを切り分けるように一口大に切ると、塩、唐辛子、スパイスだけでサッと炒めた。口に入れると、ぷるぷるして豆腐か寒天かプディング。ほんのりミルクっぽい。思えば、乳も血の一種だというから“類似商品”なのかもしれない。塩味のミルクプディングと言っても、知らなかったら信じてしまうだろう。誰か、女性を騙して食べさせたくなる。

水牛のリンパ液プディング炒め

 さて、リンパ炒めのあとは、外見が最高に異様な「ソンニャ・クワン」。なにしろ、大きな平たい皿に真っ赤な物質が充満している。見ただけでは固いのか柔らかいのかもわからない。

 案内役のミランさん曰く、「水牛の頭を全部煮たもの」。

「全部って何?」と訊くと、「全部と言ったら全部ですよ」と彼は笑った。本当に水牛の頭をただ洗っただけでそのまま鍋に入れて煮るんだという。(以下、次号)