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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『悪女/AKUJO』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

最強の女殺し屋の姿

2018/02/11

 小説『フランケンシュタイン』の作者、メアリー・シェリーは、十七歳のとき駆落ちし、著名な思想家である父から勘当されてしまった。そこで、創造主である博士から忌み嫌われる怪物の存在に、父から軽蔑された自分の悲しみを託してあの物語を書きあげた、と言われている。脱稿したときはまだ二十歳だった。

『フランケンシュタイン』が不朽の名作なのは、誰もが思い当たる、あることを、見事に物語化したからだと思う。わたしたちは、家族や企業や国家など“大きなもの”にとっての、理想的な夫や妻や子、社員や国民でいたくて、努力する。でもそのことと、個人として幸せになることが、時に矛盾してしまう。結果、親の希望とは異なる進路を選んだ若者や、組織を抜けて不正を告発した人や……。彼らは、正しい選択をしたはずなのに、“大きなもの”の期待を裏切ってしまったという嘆きからなかなか逃れられない。それどころか、自分は怪物だと感じてしまうことさえあるはずだ。そう、十七歳のメアリー・シェリーみたいに。

 さて、この映画は、韓国バイオレンスアクション版フランケンシュタインなのだ。主人公スクヒは、父代わりのジュンサンの手で最強の女殺し屋として育てられた。でも大きくなるにつれ、二人の足並みは揃わなくなった。そしてついに敵対し始め……!?

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 スクヒは自分自身でいるため、“大きなもの”と戦うことになる。その姿を観て、ふと、フランケンシュタインの怪物が博士と死に物狂いで戦うシーンを思いだした。どちらも、絶対者の決定(親による否定)を打ち砕かなければもう生きていけないという、ぎりぎりのラインに立つ個人による成長譚だからだ。

 戦いの果て、血塗れになってもがくスクヒの姿が、まるでもう一度生まれようとする巨大な胎児のようで、わたしは一種異様な感動を覚えて震えてしまいました。

INFORMATION

『悪女/AKUJO』
2月10日(土)より角川シネマ新宿他にてロードショー
http://akujo-movie.jp/