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川瀬七緒の新作は「田舎町でコルセットを作る老人」の話

『テーラー伊三郎』(川瀬七緒 著)――著者インタビュー 

 江戸川乱歩賞を受賞した『よろずのことに気をつけよ』以来、一貫してミステリ作品を手掛けてきた川瀬七緒さん。本作では初めて非ミステリ作品に挑んだ。自身が長く身を置いたアパレル業界での経験や、舞台のモデルとなった地元福島県白河市の実情が盛り込まれ、老人がコルセットを作る、という奇想天外な設定にリアリティを与えられている。

『テーラー伊三郎』(川瀬七緒 著)
『テーラー伊三郎』(川瀬七緒 著)

「田舎町でコルセットを作る老人というイメージはずっと頭の中にありましたが、その理由は自分でもわかりません(笑)。私は地元に対して複雑な感情を持っているんです。田舎の閉鎖性が嫌で飛び出した一方、どうしようもないと切り捨てることもできない。そんな田舎町を念頭に置きつつ、そこで偏屈な老人と人生を諦めた高校生が出会ったら、何か化学反応が起きるんじゃないかと」

 主人公の海色(アクアマリン)(以下アクア)は、自分の人生が「ろくでもないに違いない」と未来を悲観しているが、ある日閉店したはずの「テーラー伊三郎(いさぶろう)」のショーウィンドウに美しいコルセットを見つける。保守的な町内は騒然となるが、アクアはポルノ漫画家の母親(フランス革命前後のヨーロッパを舞台にしている)のアシスタントをしていたため、そのコルセットの芸術性の高さを肌で感じられたのだ。誰にも理解されないと思っていたテーラーの主人伊三郎は、アクアの見識を認め、共にテーラーの新装開店、そして“コルセット革命”を画策する。

 商工会のドンの相馬(そうま)老人には店に怒鳴り込まれ、女権論者の真鍋(まなべ)女史からは妨害を受ける。おまけに市役所に勤める伊三郎の息子はもちろんコルセットを作ることに反対で、コルセットは町に様々な波紋を広げていく。次々に起こるトラブルはライブ感に溢れ、読者を小説世界に引き込むが、それは川瀬さんの執筆スタイルによるところが大きい。

「実は本作はプロットをほぼ作っていないんです。その代わり、ものすごく細かく登場人物たちの設定を考えています。この人物ならここでどう動くかを中心に物語を構成したので、ストーリーが私の想像していなかった方向に思わぬ広がりを見せてくれました」