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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

桜庭 一樹
2018/02/18

『聖なる鹿殺し』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

自分の家族を一人殺して

 空から鉄骨が降ってきたとか、暴走車にはねられたとか、通り魔に刺されたとか。そういうニュースを聞くと、震えあがってしまう。自分の側には理由がないわけで、つまり、避けようがない。あなたはたまたま不運だったんだよ、なんて言われても、到底あきらめきれないだろう。

 だからこそ、占いやおまじないの人気が廃れないんだろうなぁ、とも思っている。不運を祓うために、水回りをきれいにしましょうとか、盛塩をしましょうとか。べつに信じてないはずなのに、トイレや洗面所をピカピカにすると、なぜだか安心する。それは、わたしが、“理由のない不幸”に遭うことを内心ひどく恐れているからなんだろう。

 さて、この作品は、ギリシャの男性監督による文芸系ホラー映画だ。

 少年マーティンのお父さんが、心臓病の手術中に亡くなってしまった。マーティンは悲しみのあまり、医師スティーブンにこう宣言する。

「あなたは父を殺した。だからあなたも、自分の家族を一人殺して。そうしないと家族全員が死ぬでしょう」

 すると、なんと、その言葉通り、スティーブンの二人の子供が病に倒れてしまう!

 スティーブンは、じつは件(くだん)の手術のとき、酔っぱらっていた。その良心の呵責もあってか、だんだんマーティンの宣言を信じ始めてしまう。妻と二人の子供のうち、誰かを殺さなければ、ほんとうに全員死ぬ運命なんだ、と。

©2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

 マーティンの父の死も、スティーブンの子供たちの病気も、たまたまの不運、理由のない不幸だ。でも、二人とも、その事実に耐えられない。どうして? もちろん、家族を愛しているからだ。だから、少年と医師は、一緒に作ったおまじない「一人選んで殺せ」に執着してしまう。そして……!?

 極北で全身が凍りつくような、酷い悲しみを描いた、不条理な家族愛の映画でした。

INFORMATION

『聖なる鹿殺し』
3月3日(土)より、新宿シネマカリテ他にて全国ロードショー
http://www.finefilms.co.jp/deer/