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連載高野秀行のヘンな食べもの

ネパール発、水牛の頭丸ごと煮で精力爆発――高野秀行のヘンな食べもの

2018/02/20

※前回「水牛の脊髄ちゅるりん炒めに脊髄反射!」より続く

イラスト 小幡彩貴

 ネパールの世界遺産の真ん中にある水牛超絶居酒屋。尋常でない食材と料理に驚きっぱなしだが、これからいよいよ佳境。次は本当に水牛の頭をそのまま鍋に入れて煮た料理が登場した。「ただ脳味噌はとります。脳味噌を入れると酸っぱくなるから」と不思議な説明をするミランさん。たしかに脳味噌は別の皿によそってあった。脳味噌が酸っぱいとは初耳だが、試食しなかったのでわからない。この店では、脳味噌なんて地味すぎて興味を覚えなかったのだ。

 調理に話を戻して、頭。脳以外の部分を目も鼻も耳も皮も骨も全て圧力鍋に入れて三十分煮る。それから骨を取り除き、残りの部分を今度は普通の鍋で煮込む。三時間したら、発酵した小さな川魚(ネパールではダシとしてよく使われる)、塩、唐辛子を加え、さらに三時間煮る。中身がとろとろになったら火を止める。最後にザルで濾し、液状の部分にターメリックとライムを足すと出来上がり。真っ赤な色は血と体液とターメリックが混ざった結果か。冷やすと煮こごりになる。スプーンですくい取ると、上の方は透き通っていて寒天のよう、下の方は肉質が沈殿している。

頭丸ごとプディング
頭丸ごとプディングをもつギタねえさん

 街角の居酒屋で出すには驚くほどの手間だ。圧力鍋が普及する前は一体何時間煮たのだろう。

 試食すると恐ろしく辛い。ネパール料理は一般にはそんなに辛くないので驚く。だが、やがてその辛みの中から、凝縮された臓物臭とも獣臭ともつかない風味ならぬ「暴風味」が舌と鼻孔と脳に押し寄せてきた。むうう、色づけがグロい見かけをごまかすためなら、この激辛は匂いと味を多少なりともごまかすものだろう。

 こ、これはもっと強い酒がいる! と、慌ててネパール産のウィスキーをもらう。樽で発酵させていないらしく透明だが、たしかにウィスキーの味。そして、この強烈な水牛頭丸ごとプディングに合う。顔をしかめて食べては喉を焼きながらグイグイ呷る。いつしか、私は完全にネワール族の酒呑みオヤジと同じモードに入っていた。

頭丸ごとプディングを皿に盛る
頭丸ごとプディングはコラーゲンが嬉しい

 そして、いよいよ真打ちの登場。並み居る水牛ゲテモノ料理を押しのけて「最強」の名を手にしたのは(私が決めただけだが)、「ソブ・ミツァ」。あえて日本の居酒屋風に命名すれば「水牛の髄液胃袋包みカリカリ揚げ」。

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