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連載この鉄道がすごい

赤から白へ、生まれ変わった山陰本線「余部橋梁」を眺めた

むかし鉄道名所、いまパワースポット!?

2018/02/18
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 山陰本線の余部橋梁を訪ねたら、数人の鉄道ファンに混じって、家族連れが3組ほど、展望施設「空の駅」からの眺望を楽しんでいらした。見晴らしも良く、日本海の水平線がくっきりと見える。ここは兵庫県美方郡香美町。入り江の奥にあたり、左と右は岬に囲まれている。それがまた、箱庭みたいでおもしろい景色である。

余部橋梁の展望施設「空の駅」

旧余部橋梁は赤い鉄骨を組んだトレッスル橋

 展望施設「空の駅」は、旧い余部橋梁の橋脚と線路を残して作られた。旧余部橋梁は1912年(明治45年)に赤い鉄骨を組んだトレッスル橋として開通し、2010年に白いコンクリート橋に架け替わるまで98年にわたって現役だった。旧余部橋梁の赤い鉄骨で末広がりの橋脚は、東京タワーのように美しかった。橋脚のひとつひとつは華奢だけど、その橋脚が11基も並んでいたから頼もしい。みんなで支えると頑丈になるのだ。そんな教訓を感じる姿だった。

 

 橋の建て替えが決まったとき、このトレッスル橋脚をすべて壊しては惜しいという声があったという。その気持ちはよくわかる。鉄道ファンにとっては撮影の名所として人気があり、地元の香美町も鉄道や、土木技術の記念物として観光に活かそうと考えていた。そこで、一部を残して展望施設にした。鉄橋の下には「道の駅あまるべ」がある。だから道の駅に対して「空の駅」と名付けられた。

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 私も旧いトレッスル橋が好きだった。余部橋梁を観るために、真冬の大雪の餘部駅に降りた。あれは2006年の2月12日。早朝6時30分。駅を降りて鉄橋側に歩いて行くと、ちょっと坂を上がったところに鉄道撮影の定番地点「お立ち台」がある。そこは山菜採りや猟師さんが進む山道の途中のようなところ。4畳半くらいの平坦な場所。ここで、三脚を立て、本格的な装備でカメラを構える人たちと列車を待った。

寝台特急「出雲」は青い客車のブルートレインだった

 6時50分ごろに上り特急「はまかぜ2号」が通過する。国鉄時代に作られたキハ181系という気動車だ。この気動車はエンジン回転数を上げていくと、低い唸り声に高い雄叫びが混じったような音を出す。そこが魅力だという鉄道ファンも多かった。7時10分ごろに下り寝台特急「出雲」が通過する。当時、寝台特急「出雲」は青い客車のブルートレインで、余部橋梁を通過した。あの時は、寝台特急「出雲」と気動車特急「はまかぜ」の乗車も目的だった。その旅を思い返しながら、12年ぶりに「お立ち台」に上ってみた。

旧余部橋梁を通過する寝台特急「出雲」(撮影:筆者)

 赤いトレッスル橋は真っ白なコンクリート橋に変わっていたけれど、周りの風景は変わりなく美しい。海の青、岬の緑、そこに真っ白でシュッと延びた橋の姿。「これはこれでいいな」。私は浮気者だろうか。しばらく眺めていたら、特急「はまかぜ」がきた。現在の車両はキハ189系という。銀色の車体がキラリと光る。海上に現れたトビウオを連想した。

現在の特急「はまかぜ」