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「至上の印象派展」で考える、ルノワールの少女はなぜこんなに愛らしいのか

アートな土曜日

2018/02/17

 アートは娯楽のひとつなのだから、観ているだけでうっとりしたり、晴れやかな気分になれるのがいちばん。そう改めて思わされる展示が、東京・国立新美術館で開催中。「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」は、万人に愛される印象派絵画の名品とたっぷり向き合うことができる場だ。

クロード・モネ《睡蓮の池、緑の反映》

個人コレクションによる印象派作品がたっぷり

 展名にあるビュールレとは、ドイツに生まれ後半生はスイスを拠点にした実業家、エミール・ゲオルグ・ビュールレのこと。世界的な美術コレクターとして名を馳せた彼の関心は、印象派を中心とした19世紀フランス美術にあった。それでビュールレのコレクションにはマネ、モネ、ルノワール、シスレー、ピサロ、ドガ、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ……。わたしたちにもなじみ深い巨匠たちの作品が、ごっそり含まれている。

 そんなビュールレ・コレクションの中核を成す名品が、大挙して運ばれてきたのが今展。ゴッホの《自画像》や《日没を背に種まく人》、ゴーギャンがマルキーズ諸島で描いた《贈りもの》。異様な腕の長さが目を惹くセザンヌ《赤いチョッキの少年》に、印象派誕生の直前に写実を極めたクールべ《狩人の肖像》やコロー《読書する少女》。タテ200センチ、ヨコ425センチと巨大なモネの《睡蓮の池、緑の反映》と見どころは多い。

エドガー・ドガ《14歳の小さな踊り子》

 質の高い作品揃いで目移りするなか、とびきりの目玉を挙げるとすれば、ルノワール《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》だろうか。

 モネと並んで印象派の代表格とみなされるものの、ルノワールが印象派グループと足並みを揃えていたのは数年間のみと意外に短い。溢れる光のもとで身近な光景を描く印象派の手法だと、ある瞬間に人が受け止める感覚や文字通りの印象を捉えることはできるが、モノの形態は描き切れなくなる。

 それがルノワールには不満だった。そこで彼は、印象派特有の画面の明るさは保ちつつ、徐々にオリジナルの描き方へと移っていく。その過渡期の代表作が、《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》となる。

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