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「至上の印象派展」で考える、ルノワールの少女はなぜこんなに愛らしいのか

「至上の印象派展」で考える、ルノワールの少女はなぜこんなに愛らしいのか

アートな土曜日

2018/02/17

ルノワールの描く少女が愛らしい理由

 裕福な銀行家の注文を受けて描かれた、子女の肖像画だ。植え込みの深い緑色を背景にして、座る少女が光を浴びて輝いている。斜めを向いた色白の顔は丁寧に描写されており、おそらくは実際の少女の面影をよく写し取っていることだろう。

 しっかり描き込まれたこの顔まわりの表現が、印象派にどっぷりと浸かっていたころとは明らかに違う。戸外にキャンバスを持ち出してモネらと印象派的描法を模索した数年前なら、瞬間の印象を画面に留めるため顔面の丁寧な描写など切り捨てられていた。《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》では、印象派の流儀から脱して、注文主にも充分満足をもたらすほどに表情を描き込んでいるのだ。

ピエール・オーギュスト・ルノワール《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》

 顔まわりはしっかり描かれる一方で、赤みがかった少女の豊かな髪や衣装は、素早く細かいタッチで異なる色が並置されている。これは明らかに印象派風の描き方。ルノワールはこの作品で、部分ごとに描法を使い分けている。それが功を奏して、人物の存在感と画面の明るさ・軽やかさを同時に実現できているのだ。

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 ルノワールが描く少女の愛らしさは、彼特有のバランス感覚から生まれているのだった。加えてイレーヌ嬢の姿を眺めていると、印象派を生んだルノワールはさすが、光の演出が抜群にうまいことにも感じ入る。

 開けた場所に少女を座らせることで画面にたっぷり光を導き入れ、それを人物のもとへ集中させる。集中投下された光によって少女の色白の肌は透明感を増し、豊かな髪は光を乱反射させつつ画面から浮き上がってくるかのよう。光をよく見て、自在に絵画へと反映させるルノワールの手腕が存分に生かされている。

「ただ甘ったるいだけでは?」なんて見方はとんでもない。印象派とその周辺の画家たちの、技と思考の深みも実感できる充実の展示だ。

 
「至上の印象派展」で考える、ルノワールの少女はなぜこんなに愛らしいのか

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