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言葉のひと・名波浩が語る「上位進出するための目標設定」

ジュビロ磐田・名波浩監督のやりかた #1

2018/02/23

 目標をどう設定するか。

 そのために、どう言葉をチョイスするか。

 ジュビロ磐田のリーダー、名波浩監督は独特のやり方を用いる。

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 J1昇格2年目の昨季は「得失点差プラスマイナスゼロ」「ABCクラスのB入り」を掲げてスタート(一昨年の成績は得失点差マイナス13点、13位)した。この“ABCクラス”は名波独特の言い回し。AクラスBクラスとの表現が定着する野球から呼びこんだもので、選手にもスッと胸に入りやすい言葉を選んでいる。18チームを3分割にするため、Bクラスはつまり7~12位以内になる。「7~12位を目指そう」より「Bクラスに入ろう」のほうが確かに耳に残る。最低限の目標を設定して、クリアしたら上方修正。最終的にジュビロは得失点差プラス20点、Aクラス入りの6位と大きく成績を伸ばした。

 23日に開幕する今季の目標は「クラス」をやめて、「トップ5入り」。この表現もJリーグではなかなか聞き慣れない新鮮な言葉のように映る。

©文藝春秋

◆ ◆ ◆

――今季の目標は「トップ5」入り。それも昨季の最終戦を終えたタイミングですぐに次のシーズンの目標を口にしているところが面白いと思います。チームが新しく始動してからその年の目標を公にするのが一般的ですが。

「元々、ジュビロの番記者のみんなも最終節が終わったら“来年の目標は?”って聞いてくるじゃないですか。だけど一昨年は最終節ギリギリで残留したから、聞けるような雰囲気じゃなかったと思うんですよ。“お疲れさまでした”みたいな感じだったから。だけど去年は、シーズン中に目標をクリアできそうだと思って上方修正していて、いい意味で余力も余裕もあった。来年のこともしっかり頭にあるなかで、もし5位まで行ったら『次は3位以内』って言わなきゃいけないと思っていました。幸か不幸か6位って頃合いが良くて『来シーズンの目標はトップ5入りだよ』と試合が終わった後に選手に伝えました」

いつもメッセージ性のあるワードを探してる

――「5位以内」と言わずにわざわざ「トップ5」と。前年の「Bランク入り」もそうですけど、選手の耳にも残りやすい。

「言葉を使うときに心掛けているのは、簡潔、簡略、メッセージ性のあるワードです。テレビや雑誌、たとえばマンガでもその中にヒントはないかっていつも探してますよ。何かパンチがあるワードはないか、とも」

――最近、何かチームに落とし込んだ言葉ってありますか?

「ありますよ。スマホを見ながら歩くことを『ながらスマホ』と言いますよね。選手たちもみんな良く聞くワードだし、『ながら』って別にマイナスな意味じゃない。監督になってからずっと(ミーティングで使う)ホワイトボードに書いてきているのが、攻守の切り替え、コミュニケーション、シュートの意識、セカンドボールの予測という基本的な4つのポイント。それと(具体的な動きとして)中締めの意識、スライドの意識、斜め帰陣のスピードの3つ。これらを左右に書いて『これ全部リンクしてくるよ』と。『セカンドボールを予測しながら、中締めの意識も忘れるなよ』とか、全部のポイントを『ながら』でつなげたいなと。こんなふうにいいワードが見つかったら、自分の場合はすぐ使っちゃいますね」