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寺門ジモン最強伝説2――水道橋博士『藝人春秋』特別公開 

『藝人春秋2 上下』(水道橋博士 著)から一部を公開

2018/02/24

 そして、いよいよ迎えた本番。

『藝人春秋2 下 死ぬのは奴らだ』(水道橋博士 著)
『藝人春秋2 下 死ぬのは奴らだ』(水道橋博士 著)

 冒頭、我々が今回のライブの趣旨を説明した後、ジモンを呼び込む。

 会場にグレイシー一族のテーマ曲『ラスト・オブ・モヒカン』のテーマが鳴り響き、猫ひろしとプロレスラーのアレクサンダー大塚を引き連れ、グレイシートレインを模した行列の先頭に立つ寺門ジモンが舞台に登場。

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 注目の第一声は「ヤアァッーーーーーーー!!」とおなじみのツカミのポーズを決めたが、我々は「今日は、お笑いのジモンさんは要らないから!」と冷たくあしらった。

 あくまで、今回、ゲストに呼んだのは、ジモン最強伝説の真贋判定のためだ。

 早速、満員の傍聴席の前で証人喚問に入った。

 まずは、所持品のチェックから念入りに始めた。

「キッドォ! 今、着ているのが、俺の普段着だから」

 舞台上でジモンの装備品をひとつひとつ点検してみると、アーミー服に身を包んだ左胸には、やはり襷掛(たすきが)けにした大型のポシェットが配置されていた。

 その中には、確かに英和辞書があった!

「いいかい。これは俺が英語の本を読むためじゃないからね!」

「ジモンさん、それくらいは分かってますよ」

「これは防弾チョッキの代わりだから。命を守るためのものだから。これってウケ狙いみたいに思うだろ? 違うんだよ。なぜ、辞書が良いのか? 辞書の紙は1枚1枚が薄くて、細い繊維質だからこそ、防弾効果が高いんだよ!」

「いや、それなら鉄板とか、もっと硬いもののほうが良いんじゃ……」と言い返すと、

「やっぱり、オマエらは素人だな。これが鉄板だと、なぜダメなのか分かる? 銃弾が当たった時に、紙のように何枚も重ねた弾力がないと衝撃を吸収できないの! 鉄板だと衝撃でアバラが折れるんだよ!」

 辞書が本当に弾丸防御になるのか真偽は不明ながら、理屈的には正しいような気もする。

 ただ、納得したとしても、この平和な日本で、一体いつ心臓を狙って発砲される可能性があるのかが相変わらず分からないままだ。

 ちなみに、よく見ると、英和辞書はまるでこの日のために用意したかのような新品だった。

©近藤俊哉 /文藝春秋

 続いて、ポシェットから「攻撃光」を取り出すと、「俺が、この発光の強い懐中電灯を持ち歩くわけは……。確かに護身用でもあるよ。人間の行動って85%は目に頼っているからね。でも特にこれは女性にお薦めなの。痴漢が胸を触ろうとしても、目が見えなかったらできないでしょ。強い光で攻撃したら、一瞬、目を見えなくさせることができるんだよ!」

「しかし、こんな本格的なものをどこで買うんですか?」と聞くと、

「アメ横。本来、これは軍用なんだけど、一昔前のモデルなら上野で売ってるよ!」と、まるで闇市で払い下げの軍用品を買い受ける愚連隊かの如く平然と答える。

 その後もドラえもんが四次元ポケットの中からひみつ道具を取り出すように、次々とこだわりの品を紹介していった。

「これは塩でできたキャラメル。疲れたら甘いものを摂ると良いって、よく言うけど、あれは間違いなんだよ! 人間は閉じ込められた時など、究極にお腹が空くと塩分が欲しくなる。体からミネラルがなくなるから。モンゴルの草原で長旅をした後は、塩入りのミルクティーを飲むでしょ? これが美味い!」

「飲むでしょ?」と言われても、普通の人はそんな場所にまず行かない。

「ついでに言うと、モンゴルは砂嵐がすごいんだよ。でも大丈夫! 俺の細い目はタレント向きじゃないんだけど、そのおかげで砂には強い! 最近は、薄目でも遠くまで見えるようになって来てて、どんどん進化してる!」

 肉体の進化を待つより、サングラスとかゴーグルを買いに行くほうが早いとは思う……。

 また必需品としてあげた、泥水濾過装置は「これで濾過すれば泥水でも飲めるから」、救助用の笛は「これは遭難、生き埋め、狭小地に閉じ込められた時に使用するから」、小型放射能探知機は「山の中では、違法投棄された放射性物質と遭遇する危険性もあるから」と、常に有事に備えているらしいのだが、基本、どれも一度も使用したことはなく、放射能探知機に至っては「いまだに鳴ったことはない」とのこと。ここまで徹底するジモンに、ボクの心のガイガーカウンターが共鳴したのは言うまでもない。

 会場が一際沸いたのは、「SOSライト」を紹介した時だった。非常時に救難信号を出せる点滅ライトなのだが、上空のヘリコプターへの合図や、「現在戦闘中」であることを知らせる軍事的なサインにもなるという。今でこそ、普段から防災意識を持つことの重要性が広く認識されているが、ジモンはこの頃から大規模な自然災害や国籍不明の飛翔体の飛来を予見し、大真面目に備えていたのかと思うと、やはりこの男、侮れない。