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徹夜本研究会
2016/12/03

深夜の東京という迷宮を命がけで駆け抜ける

『グレイヴディッガー』 (高野和明 著)

source : 週刊文春 2016年12月1日号

genre : エンタメ, 読書

 ジェットコースター・サスペンスという言葉がある。山あり谷あり、ひっくり返ったりヒネられたりするストーリーが猛スピードで進行するサスペンスを指す。この分野で日本随一の書き手が高野和明だろう。中でも体感速度が最速なのが『グレイヴディッガー』。たった一晩の物語である。

 主人公・八神のミッションは東京の北端・赤羽から、南端・六郷にある病院まで行くこと。小悪党として生きてきた八神は、罪滅ぼしのため骨髄移植の提供者となったが、ついに移植手術が決まり、翌朝九時までに六郷の病院に行かねばならないのである。懐が寂しいので金を借りようと友人の家に寄った八神は友人の惨殺死体に遭遇、容疑者となってしまう。警察に追われながら、財布に一万円弱しかない状態で東京を縦断しなければならない(早々にタクシーに乗るので忽ち七千円ほどに減少)。時間通りに病院に到着しなければ骨髄を待つ患者が死んでしまう。一方、東京では謎の連続惨殺事件が発生しており、八神の友人も同一犯に殺されたらしい。八神を執拗に狙う謎の追手も襲来し、ときに川に飛び込み、カーチェイスまで演じながら、彼は夜の東京を走り続ける。

 設定が完璧である。現代の東京のど真ん中で孤立無援状況を作り出すという困難を、ほんの数十ページで成立させているのだ。残るページはすべて超高速サスペンスに投入される。殺人鬼「グレイヴディッガー」とは何者か。なぜ八神は狙われるのか。いくつもの謎が玉突き事故のようにどんどん積み重なり、その迷宮を八神は命がけで駆けてゆくのだ。

 小悪党の徹夜の死闘。徹夜して読むのにこれほどぴったりの小説はない。(紺)

グレイヴディッガー (角川文庫)

高野 和明(著)

角川書店(角川グループパブリッシング)
2012年2月25日 発売

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