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契約最終年の巨人・高橋由伸監督 続投を勝ち取るカギは?

文春野球コラム オープン戦2018

2018/03/03
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「ハッスルするつもりはない」の真意

 選手時代の高橋由伸を取材していて衝撃を受けたことがある。春季キャンプ前に行う沖縄での合同自主トレでのことだ。キャンプの課題や今季の意気込みなどを一通り語ると、最後にこう言った。

「まあだからといって例年以上にハッスルするつもりはないですけどね」

 その前年の由伸は腰の故障が完全に癒えず、出場95試合、打率は2割4分6厘にとどまっていた。30代半ばを迎え、踏ん張りどころを迎えていたのは間違いなく「いや、ハッスルした方がいいのでは……」という違和感を持ったのをおぼえている。ただ、そのシーズン、由伸はいつも通りの全力プレーで130試合出場するなど一定の復調を果たして日本一に貢献した。決して「ハッスルしていない」わけじゃない。おそらく「選手生命をかけてがむしゃらにやります」という姿勢を「公に」語ることが、本人の美意識に反していたのだろう。

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 でも、その殻はそろそろ破るときではないか。

 大きなことは言わず、クールに自分のやるべきことを淡々とやる。選手時代はそれで良かったかもしれない。でも監督になってからも由伸のコメントは無難で、自分のチームのことなのにどこか他人事のように聞こえてしまうことすらある。端的に言うと熱量が不足している。指揮官としてチーム全体を引っ張っていく立場になった今、もう少し勝ちに対する執念や強い思いを表に出してファンや選手と共有したっていいのではないか。

監督として熱量が不足している? ©文藝春秋

「熱いやつデビュー」に期待

 元陸上選手の為末大氏がブログにこんなことを書いていた。

「高校デビュー、大学デビューという言葉がある。高校や大学からキャラを変えて、多くの場合は垢抜けようとする意味だと認識している。一方で、熱いやつデビューのようなものもあると思っていて、ふざけて適当でクールだった人間がある日を境になんでも夢中に取り組むということがあると思う。

 私は人間の人格はかなりの部分が思い込みだと思っているから、変えようと思えばいつでも変えられると考えている。もちろんコアの性格は変えにくいが、振る舞いはかなりの部分が変えられる。ただ、なぜだか人間は急にキャラクターを変えることに対してネガティブな反応を示すことが多く、周囲の反応に敏感な人はこの抵抗を超えられない」

 今からだって十分に変われる。別に由伸が「ふざけて適当」と言っているわけではないが、ファンが今の由伸に対してなんとなく持っている歯がゆさの一部は、本人があまりにもクールなため「淡々と負けを受け入れているんじゃないか」「本当は監督やりたくないんじゃないか」と心配になってしまうあたりにあるのではないかと思う。度重なるケガに負けず、最後まで天才的な打撃を披露し続けた由伸が野球に対する情熱と内なる闘志を持っていないはずがない。あとはそれを表に出すだけだ。

 はっきり言って今年の巨人は優勝候補ではない。ゲレーロ、野上の補強も、村田、マイコラス退団のマイナスを考慮すると微増という感じだし、昨年16.5ゲーム差をつけられたカープとの力の差を埋めるのは容易なことではないとフロントも認識しているはずだ。だからV逸=即退任にはならないとみる。繰り返しになるが、ポイントは優勝争いに食らいつき、2019年には優勝できる、という期待感を持たせられるかどうかだろう。

 そのためにもまず、由伸には今年こそ「熱いやつデビュー」をしてほしいのだ。カッコ悪くてもいい。開幕戦から、いやむしろオープン戦から、出し惜しみせず、感情をむき出しにして、なりふり構わず勝ちにしがみつく由伸が見たい。そんな“キャラ変更”した由伸の姿に「ネガティブな反応を示す」ファンなどいるはずもない。

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