文春オンライン
朝日の「森友文書の書き換え」スクープに「誤報だ!」と言えない安倍・麻生

朝日の「森友文書の書き換え」スクープに「誤報だ!」と言えない安倍・麻生

今週の珍言・暴言・問題発言

2018/03/03
note

麻生太郎 副総理兼財務相
「大阪地検の捜査に影響を与えるかについて予測しがたいため、答弁を差し控えねばならない」

朝日新聞デジタル 3月2日

 今週の珍言、名言、問題発言を振り返る。2日、朝日新聞のスクープが飛び出した。学校法人「森友学園」への国有地格安売却問題をめぐり、財務省が学園との契約に関する決裁文書を書き換えた疑いがあるというのだ。

 問題の文書は、2015年から16年にかけて学園と土地取引した際、同省近畿財務局の管財部門が局内の決裁を受けるために作ったもの。文書を確認した朝日新聞によると、契約当時の文書と昨年2月に問題が発覚した後に国会議員らに開示した文書は、起案日、決裁完了日、番号が同じで、ともに決裁印が押されていた。契約当時の文書には、学園との交渉についての経緯や学園の要請にどのように対応したかが記載されていたが、開示された文書ではそれらが項目ごとなくなったり、一部消えたりしていた。また、契約当時の文書にあった「特例的な内容となる」などの表現も消えている。複数の関係者によると、問題発覚後に書き換えられた疑いがあるという。記事の表現からは、財務省の中に書き換えについて告発した官僚が複数人いることがうかがえる。

ADVERTISEMENT

 2日の参院予算委員会で自民党の宮本周司氏に質問された麻生財務相は、「大阪地検において背任のほか、公用文書等毀棄で告発を受けて捜査が行われている」として「答弁は差し控えねばならない」と述べた。また、「財務省として調査するか」との質問には「今の段階では調査をすることはしない」と答えた(TBS NEWS 3月2日)。

参院予算委員会にて安倍晋三首相、麻生太郎副総理兼財務相、茂木敏充経済再生担当相

 一方、財務省は「捜査中」を理由に元の文書の存在の有無についての回答を拒否していたが、野党側との再三のやり取りの末、太田充理財局長が「捜査に対する影響を十分配意しつつ、調査してまいりたい」と文書について調査を行うことを認めた(朝日新聞デジタル 3月2日)。書き換えがないのならそう言えば済む話だが、麻生氏も太田氏も書き換えを否定しなかった。書き換えが事実だとしたら、公用文書等毀棄罪にあたると考えられる。毀棄とは文書を物理的に損壊したり、記載事項を部分的に抹消したりなど文書の証明力を毀損することを指す(弁護士ドットコム「文書の毀棄」)。

 森友学園問題をめぐっては、近畿財務局と国土交通省大阪航空局の幹部や職員らが、不当な安値による売却で国に損害を与えたとして背任容疑などで告発され、大阪地検特捜部が昨年から捜査を続けている。しかし、他の文書は出しているのに、今回の問題だけ「捜査中」という理由で回答を拒否するのはおかしい。逆に言えば、捜査に大きくかかわる何かが隠されているということも考えられる。希望の党の泉健太国対委員長は国会内で記者団に「もしこれが真実であれば内閣は退陣しなければいけない」と語った(時事ドットコムニュース 3月2日)。

 これまで安倍晋三首相は朝日新聞に攻撃を繰り返し、過去の“誤報”を主張してきた。2月5日に衆院予算委員会で「裏取りをしない記事は記事とは言えない」と批判。自民党の和田政宗参院議員の「謝れない朝日新聞」というフェイスブックへの投稿には「哀れですね。朝日らしい惨めな言い訳。予想通りでした」とコメントした。さすがに今回の記事は「裏取り」されていると思うが、首相らはどう対応するのだろうか? 麻生氏は共産党の小池晃氏に「朝日新聞の報道は誤報なのか」と迫られたが、「判断する立場にない」と答弁を避けた(日刊スポーツ 3月2日)。「誤報に決まってるだろ!」と言えば良かったのに。

菅義偉 官房長官
「まさに歴史に残る快挙だ。大会直前の大きなけがを乗り越えての連覇は国民に大きな感動と勇気、社会に夢と希望を与えた」

読売新聞夕刊 3月2日

 こちらは読売新聞のスクープ。政府は、平昌冬季五輪のフィギュアスケート男子で前回2014年ソチ大会に続く連覇を達成した羽生結弦選手に、国民栄誉賞を授与する方針を固めた。政府関係者が1日に明らかにしたもので、2日午前には安倍首相が国民栄誉賞の授与を検討するよう指示した。

国民栄誉賞を授与されると読売新聞が報じた羽生結弦氏 ©文藝春秋

 菅官房長官は2日午前の記者会見で「まさに歴史に残る快挙」と絶賛。仙台市出身の羽生選手が東日本大震災の被災者支援に尽力していることを踏まえ、「復興への力強いメッセージとなった」と語った。一部からは五輪で3連覇を果たした柔道の野村忠宏氏、2連覇した体操の内村航平氏らを引き合いに出して「基準が曖昧」と批判する声も出ているが、もともと国民栄誉賞の目的は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」であり、国民がヒートアップしたという点において羽生選手の受賞はまったく不思議ではない。むしろ金メダルの数はそれほど問題ではないと思う。

柔道の野村忠宏氏は3連覇、体操の内村航平氏も2連覇だが…… ©JMPA

 国民栄誉賞と読売新聞のスクープの関係については、時事芸人のプチ鹿島氏がこれまでも言及している。昨年末、将棋の羽生善治竜王と囲碁の井山裕太棋聖への国民栄誉賞が検討された折にも、読売新聞は独走スクープを放っていた。国民栄誉賞は基本的に首相による発案から内閣府の検討を経て決まるもの。2月26日の記者会見で国民栄誉賞について問われた菅官房長官は、「五輪も終わったばかり。今すぐではなく、さまざまな要素を考えていく必要がある」と述べていたが(毎日新聞 2月26日)、ずいぶん急に決まったものだ。

 安倍首相といえば、かつて国会で「読売新聞を熟読して頂いて」と発言したことで知られているが、あらためて今回、読売新聞と安倍首相、政権との蜜月ぶりが明らかになった。朝日新聞と読売新聞のスクープが重なったのは、はたして偶然だったのだろうか?