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安倍首相は意気軒高だが、野党からは「消えた年金に似てきた」との声

複雑化する北朝鮮情勢と党内政局の中で「悲願」に向かうが……

2018/03/09

 4個の金メダルをはじめ、史上最多13個のメダルを獲得するなど日本勢が大活躍を見せた平昌冬季五輪。その最終盤の2月23日夕方、首相の安倍晋三は、地球の裏側から来日した女性を相手に、今にも穴が開きかねない北朝鮮包囲網を維持、強化しようと躍起になっていた。

「北朝鮮の核武装を阻止するため、無条件で対話に応じてくるよう圧力を最大化しなければならない」

 南米チリ初の女性大統領ミシェル・バチェレとの会談でこう働き掛け、同意を得たのだった。

 五輪など国を背負う国際舞台での自国選手の躍進は、国民の熱狂を呼び起こし、一時的に時の政権与党に対する不平不満を和らげる効果がある、と政治の世界では信じられている。安倍にとってフィギュアスケートの羽生結弦やスピードスケートの小平奈緒らの目を見張るような活躍は、自らの手で引き寄せた2020年東京五輪にとっても強い追い風になる慶事だった。

平昌五輪の試合を観戦する安倍首相 ©JMPA

 しかし、核・ミサイル開発を続けながら平昌五輪を舞台に「微笑み外交」を仕掛ける北朝鮮に押されっぱなしの韓国大統領・文在寅に向ける安倍の視線は厳しかった。

「これは我々の内政問題だ」

 2月9日、五輪開会式出席のため訪韓した安倍が日韓首脳会談で、米韓合同軍事演習を再延期しないよう求めると、文は気色ばんでこう反論した。例年、3月から4月にかけて実施されてきた演習の4月までの延期は昨年末に固まった。実は、その過程で韓国が想定外の要求を持ち出してきたことは知られていない。

 それは「2019年1月以降への大幅延期」――。事実上の演習凍結になりかねない提案だった。だが北朝鮮へ誤ったシグナルを送りかねないと懸念した米が難色を示し、今年4月に落ち着いたのである。米韓調整の内情を米側から逐一聞いていた安倍は、再延期を牽制せずにはいられなかった。

 さらにこの夜、安倍はレセプション会場で、北朝鮮最高人民会議常任委員長の金永南と言葉を交わし、拉致問題の早期解決を求めた。ごく短時間であっても、北朝鮮側に拉致問題解決を訴えた証を残さなければ、南北融和ムードの中で日本の孤立感が覆い隠せないと判断しての対応だった。

 国内メディアで取り沙汰される「米朝戦争」について、日本の外務、防衛両省では「北朝鮮が『先制攻撃される』と見誤り、自暴自棄で仕掛けない限り、戦争の可能性はゼロに近い」「米国も中国やロシア、何より韓国の了承抜きには叩けない」との見方が支配的だ。

 中長期的なトレンドは「南北融和」であり、北朝鮮は手にした核・ミサイルをカードとして外交攻勢を強めてくると外交・防衛当局者は口を揃える。

 その第1弾が米韓軍事演習の中止。次のステップは4万人規模からすでに3万人程度に減っている在韓米軍の撤収だ。この流れが進めば、最悪のシナリオが現実味を帯びてくる。現在の南北38度線の防衛ラインが対馬列島まで南下、統一朝鮮が中国の衛星国になり、米中がより接近して、在日米軍も引き揚げていく――。日本にとって最も避けたいシナリオだ。

 安倍は口を開けば「北朝鮮の微笑み外交に惑わされてはならない」と各国に呼び掛けるが、この叫びを一番届けたい相手は対話路線を視野に入れる米大統領のトランプである。だが、安倍が強く訴えれば訴えるほど北朝鮮を巡る緊張が高まる皮肉な状況に、日本は追い込まれつつある。

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