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「シェイプ・オブ・ウォーター」は、インテリぶるには格好の映画だ

サブカルスナイパー・小石輝の「サバイバルのための教養」

2018/03/08

 作品賞、監督賞などアカデミー賞4部門を受賞した、公開中の映画「シェイプ・オブ・ウォーター」。ギレルモ・デル・トロ監督を「オタク界の巨星」として敬愛する小石輝は、本作を「映画通ぶりたい人や、インテリぶりたい人が誉めるには格好の作品」と断じます。その言葉の真意と、作品に込められた本当の意図とは?

©2017 Twentieth Century Fox

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タカ派軍人・ストリックランドのキャラ立ちが半端ない

恋ちゃん(映画が大好きな大手マスコミ若手社員)「小石さん、『シェイプ・オブ・ウォーター』は観ましたか? アカデミー賞4部門受賞。しかも、小石さんが大好物の、オタクっぽさ満点の映画じゃないですか」

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小石輝(恋ちゃんの先輩で、面倒くさいオタクオヤジ平社員)「いやあ。確かにオレも、『これをネタに、宮崎駿や庵野秀明も絡めつつ、オタク恋愛映画論を展開するんや!』と張り切っていたんやけどな。実際に観たら怖くて怖くて。少なくともオレにとって、あの映画は恋愛映画じゃなくて恐怖映画やったな」

「えー! やっぱり、半魚人がグロテスクで怖かったんだ!」

「いやいや。半魚人の造形はちょっと見にはえげつないし、ネコを○○しちゃったりもするけど、見慣れるとだんだんイケメンでかっこよく見えてくるから不思議や。性格も基本的にはエエ奴やしな。このあたりはさすが自他共に認めるクリーチャー(怪物)愛の権化、ギレルモ・デル・トロ監督の面目躍如、といったところや」

「へー、じゃあ何が怖かったんですか?」

「半魚人を軍事利用のために生きたまま解剖させようとするストリックランドというタカ派軍人が出てくるんやけどな。こいつのキャラ立ちが半端ないんや。マッチョでサドで女性差別、人種差別、職業差別の三拍子がそろっていて、ヘビのような粘着質で、パワハラでセクハラで、それでいて頭は結構切れるという、まさに悪役の鑑みたいな男。演じるマイケル・シャノンも『ダークサイドに堕ちたフランケンシュタインの怪物』みたいなゾッとする雰囲気を湛えている。こいつが序盤に半魚人を拷問しようとして、逆に指を2本食いちぎられるんや。その指を医者が何とかくっつけるんやけど、うまく治らずに化膿して、だんだん指が腐ってくる。で、指が腐臭を放つにつれ、本人の狂気度もどんどんアップして、半魚人をかくまうヒロイン・イライザとその友人たちを追い詰めていくという……」

©2017 Twentieth Century Fox

「うわー、やめてくださいよ! 聞いているだけで気持ち悪くなってきた」

「まあ、このグロさもデル・トロ作品のデフォルトやけどな。『ちょっと風変わりだけどロマンチックな恋愛映画』と思い込んで観に行くと、心臓の弱い人はエラい目に遭うでえ、と言いたかったわけ。付き合い始めたばっかりの恋人と一緒に観に行くには、ちょっとリスキーな映画かもしれんよ」

「だけど、アカデミー賞に加えてヴェネチア国際映画祭の金獅子賞も受賞しているし、すでに『名作』という評価は揺るぎないんじゃないですか」