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連載高野秀行のヘンな食べもの

イタリア人も卒倒!? タイの「虫イタリアン」がすごい――高野秀行のヘンな食べもの

2018/03/13
イラスト 小幡彩貴

 イタリア料理ほど世界中で愛されている料理はないだろう。日本の「たらこスパゲッティ」のように、その土地の食材や味つけでどんどんアレンジできるのも魅力だ。

 ではもし昆虫食では世界屈指の先進地域であるタイ東北部の人がイタリアンを作ったらどうなるか。それをウドンターニーという町の郊外にある店で私は身をもって体験した。

 店構えはその辺の食堂と変わりないが、実はここのオーナーシェフは「イタリアのレストランで四、五年働いていたことがある」。ふだんは普通の地元料理を出しているが、注文さえあれば本格的なイタリアンを作れるという。正確には「虫イタリアン」だが。

 私が何品か食べてみたいとリクエストしたら、「まず虫を買ってきて」。店の若者がバイクに乗せて市場に連れて行ってくれた。市場では生の虫も調理済みの虫(揚げてあったり炒めてあったり)もよりどりみどり。若者に勧められるがままに、バッタ、ゲンゴロウ、コオロギ、赤アリの卵などを買い、ビニール袋に詰めてもらった。

 オーナーに虫を渡し、ビールを飲みながら待つこと二十分。まずはオーナー自慢の虫ピザが運ばれてきた。その違和感は想像以上。コオロギやバッタがチーズにからまったまま焦げており、まるで満杯のゴキブリホイホイをオーブンで焼き上げたかのよう。

虫ピザ

 食べてみると、美味しい。正確にはピザトーストだが、意外にも本物のモツァレラチーズやバジルを使っている。本格的だ。

 虫自体も意外に食べやすい。よく火が通っているので、歯を当てただけでサクッと砕けるし、へんな臭みもない。ただ、虫の量がちと多すぎる。トッピングとして散らしてある程度ならいいものを、ゴキブリの罠並みの密集度なので、だんだんイヤになってくる。虫は味がないようで、実は密度が濃い。量を食べると胃の中で虫濃度が飽和してくる。

 しかし、私の気持ちなど忖度せず、この後も料理はつづく。しかも初級から中上級篇へ移行した。

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