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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『心と体と』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

片道切符の恋愛映画

2018/03/11

 子供のころからホームズが大好きで、原作小説をヘビロテし続けている。

 ホームズはとても変な人なので、生涯、ワトソンとしか仲良くなれなかった。でもワトソンのほうは、いい人だし、社交的だし。割とすぐ彼女ができて、結婚し、あっさり引っ越していっちゃった……。

 わたしも、ホームズほど変人じゃないとはいえ、友達はそう多くない。しかもその友人たちは、社交的で穏やかな、つまりはワトソン・タイプばかりだ。

 だからなのかな? 昔から、とくに好きなテイストの恋愛映画があるのだ。

 それは、“この人とじゃなきゃダメ”なホームズ・タイプと、“ほかの人ともつきあえるけど”なワトソン・タイプが恋をするお話だ。前者の気持ちが妙に切なくて、すごく肩入れして観てしまう……。

 さて、この作品は、ハンガリーの女性監督による、ファンタジックで心理学的、かつダークな恋愛映画だ。

2017 © INFORG - M&M FILM

 舞台はブダペスト郊外にある食肉処理場。主人公は内気すぎる若い女性マーリア。ある日彼女は、上司エンドレが毎夜自分と同じ夢を見ていることに気づいた。凍てつく冬の森を、お腹を空かした鹿たちが彷徨(さまよ)う夢……。

 二人はだんだん惹かれあうようになる。マーリアにとっては、初恋。しかも、“外のいきいきした世界と繋がれる唯一のチャンス”だ。だからこの恋は、もし失敗しても、もとのひとりぼっちの人生には戻れないという、“片道切符の危険な旅”になる。

 でも、年上のエンドレのほうは、もう恋愛疲れしていて、一人のほうが気楽なのになぁ、とちょっと及び腰だ。こっちには、もしだめだったら戻る場所もちゃんとあって……。

 マーリアの瑞々しくも不器用な冒険にハラハラし、釘付けのまま観終わった。最後にはなんとか幸せになれたので、わたしは心からホッとして、まだ昼なのに、ガクッ……と寝てしまいました。

INFORMATION

『心と体と』
4月14日(土)より、新宿シネマカリテ他にて全国順次公開
http://www.senlis.co.jp/kokoroto-karadato/