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神戸製鋼「データ改ざん」最終報告 不正を招いた“製造業の病理”は何か?

企業が抱える「チャレンジ」的なるもの

2018/03/12
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不正品に対する「安全基準」があった

 私は昨年10月以降、神戸製鋼、三菱マテリアル、東レ、宇部興産などと続いた品質データ改ざん問題を取材し、すべての記者会見に出席してきた。疑問点がすべて氷解したわけではなく、不正を弁護する余地はないが、敢えて付言するなら、いずれの不正も神戸製鋼はじめ現場の社員が「安全」と判断したもののみ、データを書き換え出荷したということだ。神戸製鋼の最終報告書は「検査結果には一定のばらつきが生じるものであり、わずかに仕様を外れた場合は問題ない」との判断が現場にあったと記している。最終報告書に記載はないが、私が神戸製鋼の現役社員に聞いた話では、検査の結果、明らかに品質に問題があると判断した製品は、データを改ざんして出荷することなく、破棄していたという。

 私が取材した神戸製鋼の社員によると、過去に多くの製品を納入した経験や蓄積したデータから、「ここまでは安全、ここからは危険」といった判断が製造現場にはあったという。このため、データを改ざんした製品を納入しても、「製品の安全性に影響がなく、顧客からのクレームも受けていない」という驕り、もしくは過信が製造現場にはあった。マスコミが「品質データを改ざんした」と報道すると、神戸製鋼がまるで粗悪品を出荷していたかのような印象を受けるかもしれないが、現実はそこまで悪質ではなかったようだ。

 事実、神戸製鋼が昨年10月に不正を公表して以降、トヨタ自動車はじめボーイング、JR東海など、不正があった神鋼製品を購入したメーカー(当初525社、最終報告書で605社に拡大)が安全性の調査を行ったが、重大な問題は今のところ見つかっていない。従って、発覚当初は懸念された自動車などのリコールも起きていない。これは神戸製鋼に限らず、三菱マテリアル、東レなど不正が発覚した大手素材メーカーに共通している。

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©getty

事実上の「改ざんマニュアル」

 変な言い方かもしれないが、各社とも品質データを改ざんするに当たっては、それなりの社内ルールがあり、超えてはいけない一線を守っていたようだ。三菱マテリアル子会社では、検査データが規格をはずれていても許容範囲とするための基準を示した「改ざんマニュアル(指南書)」が見つかった。神戸製鋼でも一部の工場で、納入先や実測データ等をエクセルファイルで管理する事実上のマニュアルが今回の調査で見つかった。

 私は神戸製鋼の社員から「もしも、いい加減な粗悪品を出荷し、重大な事故につながれば、もっと早くデータの改ざんがバレるはずだが、そうはなっていない」との本音も聞いた。確かに何十年も不正をしながら事故がなかったということは、データ改ざんをした製品であっても、結果的に安全性に問題がなかったことを証明している。不正を許すことはできないが、そこは日本の製造業にとって唯一の救いではないか。

 もちろん神戸製鋼は米司法省の捜査を受けているほか、米国とカナダの消費者から提訴されるなど、今後の行方は楽観できない。世界的に「KOBELCO(コベルコ)」の愛称で親しまれた神戸製鋼の信用力、ブランドの失墜は避けられないだろう。目先の収益を優先し、不正を隠し続けた代償は余りにも大きい。

神戸製鋼「データ改ざん」最終報告 不正を招いた“製造業の病理”は何か?

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