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独裁者になった習近平の「終わりかた」をいまから予測してみる

暗殺・クーデター・天安門の再来……いつか来た道か、それとも?

2018/03/19
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トウ小平パターン 天安門事件の再発生

 毛沢東の次の独裁者・トウ小平は、中国の改革開放政策の仕掛人として評価が高い人物だが歴史的な汚点も背負っている。1989年に起きた学生の民主化要求デモを武力鎮圧し(六四天安門事件)、数百人~数万人の市民や学生を殺害したからだ。

 当時の学生デモは、「老害化」が目立ったトウ小平や元老たちの政治に知識人の不満が高まるなかで、改革派の党幹部・胡耀邦が死去。追悼をとなえた学生たちが天安門広場に集まった結果、なし崩し的に民主化デモに発展したのだった。

 (ちなみに毛沢東晩年の1976年にも、国民人気が高い周恩来の死去の際に追悼のため庶民が天安門広場に集まり、政治改革を訴えたことで実力排除される事件[四五天安門事件]が起きている)

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1989年6月4日、天安門事件の様子を報じる香港紙。香港・六四記念館内で筆者撮影。

 将来の習近平にせよ、彼が老いた後に中国経済が不調になるなど社会不安が高まれば同様の騒動が発生しやすくなる。1911年の辛亥革命や、2011年の「アラブの春」のように、革命によってひとまず独裁政権が倒れたあとで以前よりもいっそう悪い混乱状態がもたらされるリスクも含めて、実現すると非常に危険なシナリオだろう。

西太后パターン 死後に遺族の「売国」行為が発生

 清朝末期、西太后は50年にわたり独裁的な権力を振るい、皇帝の廃立をほしいままにした。しかし彼女の死の直後に清朝は滅亡。ラスト・エンペラーの溥儀は当初こそ紫禁城への居住など優遇措置が認められたが、やがて保護を失い、日本軍に利用されて傀儡国家・満洲国の皇帝にまつりあげられた。中国人の目から見れば史上有数の「売国」行為の当事者になったわけだ。

3月11日、全人代で国家主席の任期撤廃が圧倒的多数で可決され、習近平の終身支配への道が拓かれた ©時事通信社

 習近平にせよ、仮に本人が権力を手放さず天寿をまっとうしたところで、生前の彼を恨む人間は党高官を含めて数多く残る。習近平の妻・彭麗媛や娘の習明沢、姉の斉橋橋一族らが、習近平の死後に中国国内で報復を受けずに生きていける可能性は非常に低い。……となれば、彼女らがとり得る選択肢は「亡命」しかない。

 事実、習近平政権下で失脚した令計画(胡錦濤の腹心)の弟・令完成は、兄の失脚を見て膨大な情報を手土産にアメリカへ逃亡し、米国政府の保護を受けたと伝わる。北朝鮮の場合でも、金正恩の叔母の高容淑がアメリカに亡命、金正男の息子とされるハンソルも第三国に亡命し、現地当局に保護されている模様だ。彼らは国家の機密情報を持っているので、守ってもらえるのである。

習近平の娘の明沢はハーバード大学に留学しており、習ファミリーとアメリカ当局には一定以上のコネがある。習近平の死後、政治迫害を避けるために明沢たちが機密情報を手土産にアメリカに亡命――。という、今世紀最大の「売国」行為の当事者になる可能性は(彼女らが無事に逃げられたならば)相当にあり得る話ではないかと思われる。

蒋経国パターン 上からの民主化

 蒋介石の息子である蒋経国は、父の中華民国総統の地位を引き継ぎ、1970~80年代の台湾で苛烈な独裁統治を敷いた。だが、国共内戦に敗れて中国大陸から逃亡した少数の外省人が、大多数の本省人(台湾生まれの台湾人)を統治する体制に無理があることや、小国である台湾が健全な民主主義体制を採用しないと国家の生き残りや経済発展が困難になることから、晩年は政治の民主化に舵を切った。

 そのため、現在でも台湾において蒋経国の評価は高く、子孫たちも特に迫害は受けていない。蒋経国の孫の蒋友柏は、デザイン会社を経営するイケメン企業家で政治的にもリベラルな人物。別の孫の蒋萬安は2016年に立法委員(国会議員に相当)に当選した若手議員で、蒋友柏よりも血筋へのこだわりや保守的な政治傾向は強そうだが、少なくとも選挙で当選できる程度には人望を集めている。

蒋経国の孫(蒋介石の曾孫)のイケメン議員・蒋萬安の選挙ポスター。余談ながら、蒋介石の血筋には美形が多い。

 ゆえに習近平についても、やがて蒋経国と同様の「変節」をおこない得るという主張がある。例えば在米中国人ジャーナリストで今年1月に『カネとスパイとジャッキー・チェン』(ビジネス社)を刊行した陳破空氏がその立場だ。

 陳氏は同書中で「たとえ習近平が毛沢東のような“終身君主”の座についたとしても、彼の死後、残された家族に憎しみの矛先が向く」と述べる。言うまでもなく、過去の中国では王朝が替わるたびに廃帝や前王朝の皇族が皆殺しにされるケースがしばしばあった。

 習近平にとって、本人や家族が「無事に死ぬ」ためには、どこかの段階で開明君主に変わらざるを得ないというわけだ。習近平の個性からは考えづらいシナリオながら、彼も中国人である。国のためという以上に、家族の生存のために、そうした方法で批判の矛先をかわす可能性はゼロとも言えない。