昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

幸田 泉
2018/03/19

告発ルポ 新聞販売店主はなぜ自殺したか

日経、朝日、読売、毎日……。知られざる連続死を追った

日経本社トイレで火災 駆けつけた消防隊員ら

 2017年末、東京中心部のオフィス街を騒然とさせる出来事が発生した。東京都千代田区の日本経済新聞社東京本社ビルのトイレで火災が発生し、男性1人が亡くなったのだ。火災の1週間後、警視庁丸の内署は男性の身元を発表。亡くなる1カ月ほど前まで東京都練馬区で日経新聞の販売所長をしていた水野辰亮さん(56)だった。焼身自殺の可能性が高いという。水野さんの死は全国津々浦々に張り巡らされた新聞販売網に衝撃を与えた。こんな死に方をする人がついに出たか――販売店主らはこう受け止めている。

 日経新聞は2015年に英国の有力経済紙「フィナンシャル・タイムズ」を約1600億円で買収し、世間をあっと言わせた。

 だが、この買収劇の裏で日経新聞を扱う新聞販売店主らは、「そんな金があるなら『押し紙』を減らせ」と不満を募らせていた。

「押し紙」とは、新聞を発行する本社が読者の数を多く超える部数の新聞を、販売店に買い取らせることである。

「近年、日経新聞も読者離れが進み、販売店に押し紙が増えている。日経新聞は高価格なので、読者が付けば販売店の利益は大きい。しかし、読者が去って押し紙が増えると、日経新聞社に払う新聞原価が高い分、販売店の損害も大きい」(販売店事情に詳しい全国紙関係者)

 他紙に比べて元々高価格な日経新聞は2017年11月1日、さらに価格を上げた。月4509円(朝夕刊セット)の購読料を一気に月4900円にしたのだ。

値上げは「押し紙を25万部ほど減らすため」

 この値上げの真相は、業界ではもっぱら「押し紙を25万部ほど減らすため」と言われている。販売店からの突き上げが無視できないところまで来たということだろう。公表発行部数は一気に減るものの、表向き「値上げで読者が減った」という理由は立つ。値上げ前、日経新聞社の販売担当社員は販売店を訪問し、5部や10部と僅かではあるが、押し紙の減数を伝えていた。

 だが、その程度の減数は焼け石に水で、販売店が苦しいことには代わりはない。そんな最中に水野さんの死は起こった。多くの新聞販売店関係者はこう推し測る。本社に対して「抗議の自殺」を遂げたのだ、と(日経新聞社広報室は〈亡くなられた元店主の男性は、当社の取引先の新聞販売店を長きにわたって経営されており、このような事態になったことは誠に残念であり、ご冥福をお祈り申し上げます〉とし、〈警察の捜査が続いていることもあり、憶測に基づくコメントは差し控えさせていただきます〉と回答した)。

水野さんが経営していた販売店

「新聞の読者離れ」が言われ始めてもう20年近く経つが、特に直近10年は業界全体の凋落が激しく、販売店への重圧は増すばかりだ。

 販売店を苦しめている原因としては、押し紙に加え、10年ほど前から「折り込み広告」の量が下降線を描き始めたことが挙げられるだろう。広告を新聞に折り込む手数料は、販売店の潤沢な収入となる。新聞社が読者の数を大幅に超える押し紙を販売店に買い取らせる一方で、販売店は、折り込み広告収入で押し紙の損害の埋め合わせをしてきた。新聞を読まない「無読層」が増えるほど、販売店にとっては広告収入が生命線となる。

 実は近年、表面化はしていないものの新聞販売店主の自殺は多発している。新聞社という大看板の陰で販売の現場からは悲鳴が上がっているのだ。その実態をレポートする。

この記事の画像