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新聞販売の闇――「押し紙」偽装で読者データを改ざん

販売部数の偽装は「詐欺」という犯罪的要素を孕んでいる

2018/03/19

読者データを改ざん

 板見さんは、毎日新聞社に対して起こす訴訟の中で、自身が目の当たりにした押し紙による部数の偽装など「新聞販売の闇」を明らかにしていくつもりだという。

 板見さんは本社との書面を交わさない「口約束」で後に不利を被らないように、南甲子園販売所の契約書トラブルがあって以降、関係者との会話をなるべく録音してきた。

 板見さんが保持する録音の1つが、多くの新聞販売店が使っている読者管理データシステムのメーカー「デュプロ株式会社」(本社・大阪市北区)のエンジニアとの会話だ。

 押し紙は然ることながら、新聞の折り込み広告が「詐欺」という犯罪的要素を孕んでいることはあまり知られていない。板見さんの録音の存在によって、その暗部に光が当たろうとしている。

「新聞販売店の収入は、新聞購読料と折り込み広告の手数料です。読者のいない押し紙も含めた『送り部数』の広告枚数を受け取り、行き場のない広告は新聞紙で包んで廃棄していました。折り込み手数料は1枚いくらという枚数に比例した価格設定なので、廃棄分は手数料の詐取になります」(板見さん)

 販売店は罪悪感を持ちながらも経営を支えるため手数料を少しでも多く得たいし、新聞社は販売店に詐取金も含めた折り込み広告収入があるのを見越して押し紙をしている。

 板見さんはこう証言する。

「こんな部数の偽装ができるのは、新聞販売店が日本ABC協会の公査で偽データを見せているから。デュプロのエンジニアはそのデータ改ざんに協力しているのです」

 日本ABC協会とは紙媒体が発行部数を偽って広告料を吊り上げるのを防ぐために第三者の立場で監査を行う一般社団法人だ。2年に1回、新聞販売店公査を行っている。

©iStock.com

データの改ざん方法は「過去読(かこどく)起こし」

 慣例で日本ABC協会は公査の前日、新聞社に対してどの販売店が対象かを通告する。

「デュプロのエンジニアは、公査対象の販売店が分かったらすぐ店に行き、パソコンの読者データを改ざんし、『送り部数』と同数の読者がいるよう偽装すると言っていました。本当に販売店の読者データを書き換えてしまったら大変なことになるので一時的にデータを改ざんし、公査用にプリントアウトするわけです。販売店主や担当員にそんな技術はないので、エンジニアがやるしかありません」(板見さん)

 数年前に日本ABC協会の公査を受けた別の毎日新聞の元販売店主は、こう述懐する。

「公査の時に読者データを改ざんするのは業界の常識です。担当員から『明日、お宅に公査が入る』と連絡があったので、『ホンマの部数を出そうか?』と言ったら『勘弁してくださいよ〜』とヘラヘラしていましたね」

 担当員からは発証台帳(読者の名前や住所を記録したもの)、発証集計表(集金状況を記録したもの)を改ざんし、領収書の控えをねつ造するよう指示を受けた。公査当日は担当員も販売店に来た。

「データ改ざんの方法は『過去読(かこどく)起こし』と言って、かつて読者だった人のデータがパソコンに残っているので、その人たちがまだ読者であるかのように書き換えるのです。改ざんデータは公査用にプリントアウトして、公査が終わった後、パソコン内のデータはまた元に戻していました」(同前)

 公査は1時間ほどで終わり、日本ABC協会の公査員(監査する人)は「こんなにきちっと資料がそろっていると楽でいいですよ」と喜んでいたという。

朝日新聞本社ビル ©文藝春秋

「日本ABC協会の公査で読者データの改ざんは常識」と言う新聞販売店関係者がいる一方で、「ウチはもうデータ改ざんはしていない」と反論するのは朝日新聞関係者だ。2010年頃、「公査で読者データを改ざんしている」と内部告発があり、改ざんを止めたという。

「現在、朝日新聞の販売店は公査では読者の生データ(正確なデータ)を出しています。日本ABC協会は朝日新聞本社への公査の後、販売店を公査する。朝日新聞の販売店は送り部数のうち約3割が『押し紙』の販売店が一般的です。だから、本社の送り部数と実売部数に差があって、公称部数に足りていないことは公査員は分かるはずです。でも、公査がきっかけで販売店の押し紙が整理されたという話は聞いたことがない。ABC協会の公査自体が形骸化しているのではないでしょうか」