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新聞販売の闇――「押し紙」偽装で読者データを改ざん

販売部数の偽装は「詐欺」という犯罪的要素を孕んでいる

2018/03/19

選挙の際に証紙を張った法定ビラも廃棄していた

 2017年12月1日。山本議員は市議会本会議の一般質問で新聞の部数偽装にからむ税金の無駄遣いについて質問した。

「決算書に記載されている昨年度(2016年度)の新聞折り込み委託料はいくらか」という質問に対する市側の回答は次の通りである。

「広報いんざい」が592万9880円、「議会だより」が122万8948円、「いんざい保健センターだより」が22万2983円、「いんざい産業まつり」が10万4436円、参院議員通常選挙公報が64万4536円、千葉県知事選挙公報が14万7056円、印西市長選挙公報が24万7278円。計852万5117円。

 印西市の折り込み委託料のうち仮に3割が「残紙(押し紙)とともに捨てられている」とすれば、年約300万円の損害である。

 山本議員は言う。

「2万数千世帯に折り込むだけでもこれだけの金額になる。全国には1800もの自治体があり、規模の大きい自治体では一度に何十万部も折り込んでいるだろう。全国的に累積した税金の損害はとんでもない額になるはず。印西市が先駆けになって是正に乗り出すべきだ」

「折り込み広告手数料(税金)の詐取」を追及する山本議員に対し、市側は〈平成29年(2017年)11月9日付の文書で広告代理店に対し各新聞販売店に改めて部数を確認して報告するよう求めている〉と回答した。山本議員は「市が今のまま形式的な調査しかしないのなら住民監査請求も辞さない」と追及の手を緩めるつもりはないという。

 

 ある毎日新聞の元販売店主は「折り込み広告廃棄の罪は深い」と漏らす。自身の店は1000部ぐらい残紙(押し紙)があり、余った折り込み広告は廃棄していたが、「本当に心が痛む」と言う理由は、選挙の際に証紙を張った法定ビラも廃棄していたことだった。

「法定ビラには公金が使われているし、何より必死に選挙運動をしている候補者と手間をかけて証紙を張った人たちに申し訳ないんです……」

「NO団、NO材」

 だが、一方ではこうした苦境の中でもしっかり地域に根を張り、未来を見据えて安定した経営を続けている販売店もある。千葉県にある全国紙の販売店を訪ねた。

 2階建ての販売店に入ると、電話が鳴りっぱなしで、従業員らはてきぱき対応していた。読者向けに地元のイベントチケットを販売しているのだという。

 この販売店の店主は1980年代に新聞販売の世界に入った。「新聞が売れないとか、折り込み広告が減ったとか、販売店主が文句ばかり言うのは間違っていると思いますよ。人のせいにしてばかりいては展望も開けません」ときっぱり言う。

 この販売店の経営方針は「新聞販売、配達を通じた生活支援で読者の幸せをお手伝いする」。配達する新聞には〈家の中で困ったことがあれば連絡を〉と書いたチラシを定期的に折り込む。読者からは、廃品回収、庭の草むしり、留守中の植木への水やり、ブロック塀の修理など様々な注文があり、従業員らは「街の便利屋さん」として忙しく駆け回っているという。台風の夜には高齢で1人暮らしの読者の家に「明日、雨どいが壊れていたりしたら連絡してね」と1軒1軒電話をかける。生活サポートは有料だが、読者からはとても感謝されているという。店主は「うちの読者は、他の新聞の勧誘が来て高額な景品を見せられても、絶対に乗り換えない。読者の8割がこうした『固定読者』と言われる人々ですよ」と胸を張る。

 また、「新聞のデリバリー力を生かしてもっと他の商品やサービスの提供ができないか」と考えて野菜などの食料品販売を始め、新聞購読に付加価値特典を付けて好きな商品に交換するサービスなども店独自に取り組んだ。その一方で「新聞販売には『NO団、NO材』を貫いた」と話す。拡張団(セールスチーム)は使わない、購読契約時の拡材(景品)は使わないという意味だ。

「拡張団が高額な景品を使って契約を取るやり方は、誰も幸せにならない。固定読者は『ずっと購読しているのに何ももらえない』と腹を立てているし、景品に釣られて契約した読者は『もっといい物を持って来い』といつも不満を抱えています。読者はみんな口がへの字になっているんです。だからうちの店は長く購読すればするほど得をして、幸せになる仕組みを作ってきました」

©iStock.com

 この販売店でも読者の高齢化など業界の悩みは共通だ。しかし、

「それなら高齢者向けのサービスを充実させればいい。トヨタはもともと機織り機の会社だった。時代とともにニーズに合わせて商品は変わっていくものだ。トヨタが『うちは機織り機しか作らない』という方針を選んだら、今のトヨタはなかった。新聞屋だって変わっていかなきゃいけないのは当たり前です」

 この店主は「新聞販売店主でいることが楽しくて仕方がない」と語る。街を歩けばあちらこちらから声がかかり「地域の人の役に立っている」ことを噛みしめているそうだ。変わらない多くの新聞販売店が淘汰されていく一方で、時代に合わせ頑として独自の経営理念を貫く販売店はしっかりと生き残っている。

 こうした現実に新聞社は真摯に向き合わなくてはならないだろう。