昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

若狭 敬一
2018/03/16

中日・小笠原慎之介が開幕投手を目指す理由は、松坂大輔にある

文春野球コラム オープン戦2018

「今年、対戦したいバッターですか? そうですね……」

 カウンター席の彼は生ビールを少し口に含んで、天井を見つめた。答えはしばらく出そうにない。私は左隣にいた。店内はすでに満席だった。目の前では砂肝とつくねが焼かれている。壁にかけられたテレビ画面には誰も注目していない。全ての客が焼き鳥を頬張り、ドリンクを流し込み、大声で会話を楽しんでいた。

 3月上旬。私は小笠原慎之介と一緒だった。由宇で行われた教育リーグの広島戦で5回6失点。キャンプから順調だった左腕が初めて躓いた直後だった。

「確かに結果は駄目でしたが、ストレートで押すことがテーマだったので、そこはクリアできました。次、抑えます」

 切り替えは早い。もう前を向いていた。気になるのは次の登板だ。「金曜日の甲子園です」と即答した。小笠原は2月24日の中日・日本ハム戦に先発し、4回無失点の好投。その日、首脳陣から「次が中6日で由宇。その次が中5日で甲子園」と告げられていた。

「正直、はじめはなんで中5日? と思ったんです。登板間隔をつめる理由が分からなかった」と打ち明けた。しかし、カレンダーを見つめて考えが変わった。「金曜日に投げて、そのまま中6日で行くと3月30日。そう、開幕戦!」。20歳は武者震いした。

「開幕投手、なりたいですね」

開幕投手を目指す高卒3年目の小笠原慎之介

「全てが一級品」西武・菊池雄星からの助言

 小笠原には憧れの投手がいる。西武の菊池雄星だ。「全てが一級品。僕の中ではナンバーワン」と尊敬している。2017年6月16日。ナゴヤドーム。中日・西武1回戦。小笠原は菊池と投げ合った。首脳陣に「どうしても投げさせて下さい」と志願した。高卒2年目で直訴。大胆である。結果は9対1の完敗。「力の差を見せ付けられました」と脱帽した。

 昨オフ、私が司会をするCBCテレビ『サンデードラゴンズ』では小笠原と菊池の対談を企画した。しかし、双方の予定が合わず、断念。代わりに私が小笠原の質問を持ってメットライフドームまで足を運んだ。練習方法、試合前ルーティン、キャンプの過ごし方など質問は多岐にわたり、取材は1時間を越えたが、菊池は一つ一つ丁寧に答えてくれた。

 ローマは一日にしてならず。菊池にも紆余曲折があった。入団後、肩を壊してフォームを崩した。ストレートが走らない。変化球に頼った。迷った。焦った。しかし、転機があった。「かずさん(石井一久)が真っ直ぐを磨けと。それで目が覚めました」と振り返る。その後、菊池はストレートを徹底的に投げた。さらに筋肉の仕組みや栄養学も独自に勉強。そして、今がある。菊池は小笠原にメッセージを送った。

「私がスタイルを確立したのは5、6年目。まだ焦る必要はない。ただ、ストレートは磨いて欲しい。甲子園で優勝した時の小笠原君はもっと荒々しかった」

 2017年12月3日。小笠原は『サンデードラゴンズ』に出演。VTRで流れる菊池の言葉に何度もうなずいていた。「やはり真っ直ぐですね」。決意は固まった。